米国ネット監視問題、「告発者」が行方不明 各国の反応は?

 米政府には、米国民や外国人の通信情報を収集する監視プログラムが存在する—-ガーディアン紙やワシントン・ポスト紙が、政府による個人情報の収集について報じて以来、取り沙汰されていた「情報提供者」がついに明らかになった。

 「プリズム」と名付けられたこの活動は、NSA(アメリカ国家安全保障局)などがインターネット大手各社や携帯電話会社の協力を極秘に取りつけ、メールや通信記録などの情報を抜き出していたもの。暴露した渦中の人物は、米国家安全保障局(NSA)の委託を受ける民間会社に勤めていたコンピュータ技術専門家、エドワード・スノーデン氏(29)だ。CIAに勤務していたこともあると語る同氏は、実名で受けたガーディアン紙のインタビューで、「先月から香港に滞在している」と述べ、今後はアイスランドへの政治亡命を希望しているという。

 同氏は、暴露の動機について「大規模な監視システムを極秘裏に構築し、世界中の人々のプライバシーやネットの自由、そして基本的人権を破壊するのが許せなかった」と述べているという。こうした情報収集は、ブッシュ前政権下で、911後のテロ対策のために始まった。同氏は、このような「自由の侵害」に反対の立場であり、「自由擁護派」だと信じたオバマ政権が、同様の政策を継承、拡大していることへの失望が引き金になったとしている。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、同氏にインタビューしたガーディアン紙のコラムニストが、同氏が自らを「公益のための告発者」と呼び、自らの行為に「満足している」と伝えていると報じた。自らを待つ運命にいくばくかの不安を覚えつつ、心の平安を得ているとのことだ。

【米国内の反応】
 米国内では、こうした同氏の自己像に賛同し、政府の自由の侵害を非難する声も上がっていると伝えられる。しかし、フィナンシャル・タイムズ紙の報道によれば、米上院情報問題常設特別調査委員会の委員長を務める民主党のダイアン・ファインスタイン議員や、フロリダ州選出の民主党上院議員ビル・ネルソン氏など、名だたる政治家から、厳しい非難と追求姿勢が表明されている模様だ。同氏らは、スノーデン氏は「(国家に対する)反逆者だ」などと述べ、詳細は明らかにしないながらも、徹底追及と、法の裁きを言明した。

 このように、政府周辺から、スノーデン氏の米国への即時送還を求める声が強まるなか、肝心の同氏の行方は現在不明のようだ。公表されたインタビュー映像から特定されたホテルは報道陣が張り込む騒ぎとなり、その後「エドワード・スノーデン」なる人物が滞在していたと公表したミラ・ホテルでは、電話取材を受けたその人物が「渦中の人物ではない」と否定した模様。結局は、消息がしれないままだという。

【香港はスノーデン氏の安息の地になりうるか?】
 いずれにしても、香港内にとどまっていると思われる同氏だが、ハワイから向かった「香港」という選択肢については、首をかしげる事情通が多いと、各紙とも伝えている。中国政府の弾圧から逃れる人々の「安息の地」と見られることもある香港だが、中国以外についてはその限りではないためだ。
 実際、米国と香港は犯罪人引渡条約を1996年に締結しており、この条約に基づいて犯罪者が逮捕、引渡された例もある。
香港政府筋からも、「法に則り、粛々と処理する」との発言があり、米国からの要請があれば、身柄が引き渡される可能性は非常に高いと見られている。
 また、ニューヨーク・タイムズ紙は、正式な逮捕状が出たり、アメリカからの要請がない限り、香港当局が同氏を積極的に逮捕する可能性は低いながらも、事件の「犯人」として名前が挙がった時点で、同氏が監視下に置かれている可能性は高いとの指摘を載せている。

【諸外国の反応】
 事件は、米国、香港以外の諸国にも波紋を広げているようだ。

 まず、数日前に米国とのトップ会談を果たし、かつてない緊密な関係づくりをアピールしたばかりの中国は、スノーデン氏の「引渡し」を拒否する可能性を取り沙汰されている。
 犯罪人引渡条約には、「その要求が中国政府の防衛、外交、あるいは公的利益や政策に影響する場合」には拒否できるとの保留条項があるという。果たして、同氏の持つ情報はこれに該当するかが問題だが、専門家は、中国がそこまでの価値を見出す可能性は低いと見ているようだ。

 次に、アメリカの最大にして最も近しい同盟国であるイギリス。同様の監視プログラムの存在や、アメリカから情報のおすそわけに預かっているのではないかとの疑惑が噴出している。
 しかしキャメロン首相は、「我が国の情報活動は法の範囲内で行われている」としてこれを否定したとフィナンシャル・タイムズ紙は伝えている。来週、イギリスの北アイルランドで開催されるG8でもこの問題が取り上げられる可能性は高いが、キャメロン首相が積極的に働きかけることはないだろうと予想されているようだ。

 一方、来週、オバマ大統領が訪問予定のドイツでは、メルケル首相が会談時にアメリカの監視システムを俎上に上げる見通し。議員からも、情報収集のスケールが「単なるテロ対策という範囲を超えており、警戒すべき」との声が上がっているという。

 こうした、監視システムに対する批判に対し、オバマ大統領は「外国人によるテロを防止するために必要かつ、公正なもの」と弁明しているようだ。

 スノーデン氏が亡命を希望する、「自由を大切にする国」アイスランド当局は、同氏がインタビュー映像で「亡命の方法がわからない」と述べたことに対し、同氏自身が同国で申請する必要があるとしている模様。ただし、同国の法律専門家は、例えば大使館など外国でも申請できる可能性を指摘しているという。

 「自由の国」アメリカの監視システムの是非と、スノーデン氏の処遇が注目される。

Text by NewSphere 編集部