中印首相会談 良好な関係を強調も、隠しきれない不満と不信とは?

 中国の李克強首相は20日、3月の就任以来初めての外遊で、インドを訪問した。世界最大級の人口を抱えつつ隣り合う「アジアの大国」間には、著しい発展とそれを支える資源への希求など共通点も多く、それゆえに、対立点も少なくない。
 4月には、両国が領有権を争うカシミール地方のインド側支配地域に、中国軍が侵入。インド側の再三の撤収要求にもかかわらず、5月5日まで応じなかったため、インド側の対中感情が悪化しているとも伝えられていた。

【強調された「円満な協力関係」】
 会談後、李首相とインドのシン首相は、貿易と投資の促進、国境問題の平和的解決をはじめ、両国にまたがるブラマプトラ川の相互理解に基づく利用や、相互の旅行者の増加などを図る共同声明を発表した。
 CNNによれば、特に李首相は、今回の訪印の目的を「相互信頼の増強、協調関係の強化、未来志向」とし、両国間の実務的協力の意義を強調し、世界にもアピールしたい考えを示したという。
 シン首相も、表向き、李首相がインドを初の訪問国に選んだことへの謝意と歓迎の意を示し、両国の協力の重要性を強調した。インドの在中大使も、今回の訪問を「重大な意味を持ち、生産的だった」と述べ、「(中印間には)懸案事項も複数存在するが、共有する利益はそれを上回る」と、両国間の協力の意義を強調したという。

 とはいえ、両国間には、隠しきれない温度差もあったと海外各紙は報じている。

〈貿易不均衡〉
 中印間の貿易額は昨年、665億ドル(約6兆8200億円)に達し、2015年までに1000億ドルへの拡大が目指されており、相互に無視できない関係にある。
 インド側の対中赤字は290億ドルに及んでおり、インドはこの不均衡を是正したい考えだ。これについては、インドが世界1位の輸出量を誇るバッファロー肉の輸出増加などが、俎上にあげられたという。
 ただ、その他の部門について、インドが対中貿易関係を本格的に向上させたいのであれば、まずは国内の製造基盤を成熟させる必要がある、とエコノミストは指摘している。

〈領土問題〉
 共同記者会見でシン首相は、両国の良好な関係と発展の基盤は、「国境での平和と平穏」にあると釘を刺し、中国を牽制したという。
 対して李首相は、「両国間に難しい問題があることは否定しない」が、「解決されるまで平和を維持することでシン首相と合意した」と受け流し、改善や今後の動向については言及を避けたと伝えられている。

【首相会談では中国に軍配か?】
 ニューヨーク・タイムズ紙は、今回の首相会談について、「中国に利益が多く、インドが得たものは少なかった」というインド国内の専門家の見解を紹介している。
 海外紙は、会談における両首相の姿勢を、下記のように分析している。シン首相は、中国がインドの国益を害さないとの「言質」を求め、要請や遠まわしな非難を繰り返した。対して李首相は、自国が不利になりかねない問題については一切を「受け流し」、自国の利益になる貿易問題や観光問題についてのみ掘り下げた。

 さらに、こうした両国間の相互不信を浮き彫りにするのが、今後の両首相の外遊先だとも分析されている。李首相はこのあと、インドと対立するパキスタンを訪問し、核利用問題について話し合うといわれている。一方、シン首相は訪日を予定している。
 警戒・牽制しつつ、協力し、未来を語り合う・・・巨国同士の、難しい表と裏が透けて見える会談だったといえる。

Text by NewSphere 編集部