米国が中国のサイバー攻撃を非難 そのねらいは?

 アメリカ国防総省は6日、中国軍の活動などに関する年次報告書を議会に提出した。
 米戦略的国際研究センターの軍事問題専門家、アンソニー・コーデスマン氏をして、「国防総省の報告書は、今や、よりバランスがとれ、具体的、分析的で、実用的なレベルに達した」とのお墨付きを付けさせ、「中国在住の中国人が、自国の軍事的な努力の全体像を知りたければ、米国国防省の報告書が必読だ」と語らしめた今回の報告書。海外各紙はそれぞれの視点でこの報告書を分析した。

【中国の対米サイバー諜報活動】
 今回、報告書において、国防総省は初めて、アメリカの政府機関や企業を標的にしたサイバー攻撃が相次いでいることについて、「一部は中国の政府や軍が直接関与して行われたとみられる」と断定。米国政府筋によるこれまでの批判を一歩進めた形になった。
 アメリカといえどもサイバー諜報に無縁ではなく、特にイランの核保有に歯止めをかける作戦においては、活発に活動してきたことは認めているが「産業的、軍事的機密を盗んだことはない」との論法だ。
 国防総省として、かつてないほど直截的な表現で強い非難をした今回の報告書は、議会内の「中国批判」を高める可能性があるとフィナンシャル・タイムズ紙は分析している。

 一方、ニューヨーク・タイムズ紙はこれに対する中国側の主張に焦点を当てた。中国外務省の華春瑩副報道局長は「中国はあらゆるサイバー攻撃に断固反対する」と述べ、「根拠のない非難や憶測は両国間の関係を悪化させかねない」とし、この問題に対する冷静な協力関係による建設的な対話をアメリカに呼びかけたという。
 同紙は、電話インタビューに応じた、元人民軍の退役軍人であり、現在は国軍縮協会理事の徐光祐少将の見解も伝えている。氏はこの問題について「インターネットの世界でアメリカが他の追随を許さない優位を保っていることは自明」と指摘し、アメリカこそが、ネットの世界のルール作りを主導し、範を示すべき立場にあるのではないかと問いかけたという。

【中国の軍備の増強とその野望】
 さらに、報告書は中国の新しい海軍艦や先進的な戦闘機への投資に言及。米国内で同国軍艦への脅威が長らく取沙汰されてきた弾道ミサイルについても、限定的な能力ながら、実戦的な段階に入ったとはじめて分析したという。未だ、巡航中の軍艦に照準を合わせるだけの衛星システムが完成しているかは不明だが、中国が昨年、相当数の衛星を打ち上げたことが非常に注視されている模様だ。

 報告書は、アメリカから帰国した留学生や駐在員などの人的資源や、海外への投資の増加、ジョイント・ベンチャーの拡大など、あらゆる機会を活用して貪欲に技術革新に努めていると述べ、サイバー諜報活動も含めたこれらの情報活動の目的を、「中国の国防と技術産業に利すること」と「アメリカの政策決定者が中国をどう考えているかを知るため」と分析している。

 一方、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中国軍が最優先する軍事戦略が、中国の支配地域に他国の軍の艦船や航空機を近づけないことにあると紹介したうえで、上のような技術の革新や軍備の増大によって、「支配地域」が従来の台湾から大きく拡大、遠洋にまで及ぶ動きをみせているという報告書の見解を紹介している。

 コーデスマン氏は、「中国は歴史的な役割に、つまり、他の地域への勢力拡大に戻ろうとしている」と分析している。アメリカと、今や世界第二位の大国となった中国との「情報戦」の行方が注目される。

Text by NewSphere 編集部