海外紙が伝える、世界各地のメーデー

 労働者が団結して権利を要求する、5月1日のメーデー。今年も、世界各地で「労働者の祭典」が繰り広げられた。
 海外各紙は特に、緊縮財政による景気の低迷や高い失業率に苦しむ欧州各国や、治安当局と労働者が激しくぶつかり合うのが恒例のトルコ、右肩上がりの「高度経済成長期」にあるとして注目を集めるインドネシアなどの様子に注目した。

【緊縮財政への反発高まる欧州】
 ドイツ主導の緊縮財政が、各国の失業率を過去最高レベルに引き上げ、出口の見えないトンネルに入り込んだかのような閉塞感が漂うヨーロッパ。ニューヨーク・タイムズ紙はローマ・カトリック教会のフランシスコ法王がこの日、バチカンのサンピエトロ広場での信徒への演説で高い失業率を「社会全体の協力と知恵」を必要とする喫緊の問題とし、若者たちの未来に思いを寄せたことを紹介し、問題の深刻さをうかがわせた。
 フィナンシャル・タイムズ紙は欧州各国の「メーデー」を詳細に紹介した。

〈イタリア-不況による「事件」続出。若者の失業率が過去35年で最高に〉
 イタリアでは、メーデーの3日前、失業中の男性が「鬱憤を晴らすために」首相官邸近くで発砲し、警官2名が負傷したほか、3月には倒産の憂き目にあった40代の会社経営者が、たびたび陳情に訪れていた州庁舎の職員2人を道連れに自殺する事件も起きている。
 「イタリアは死にかけている。このままではいけない」。イタリア労働者組合総同盟の党首は、かねてより問題視されている、政治家や高所得者層にはびこる脱税や特権をとりあげ、緊縮財政の続行よりも打つべき手があると訴えた。

〈スペイン-首相が浴びる外部の緊縮反対の声と、党内の増税反対、支出削減の要求〉
 デモを先導する組合の指導部は、「それ以外の方法がないなど、嘘だ」と首相の緊縮財政を無策と非難。一方、党内の有力政治家からも、「増税がスペイン経済をさらに弱体化させている。前例のない改革による歳出削減を断行すべき」との非難の声が上がっているという。

〈フランス-緊縮を強いる「ブリュッセル」はフランスを欧州の暗黒に埋没させる圧制者か〉
 フランスでは、極右国民戦線党首のマリーヌ・ル・ペン女史が、メーデーに乗じて気勢を上げた。同氏は「ベルリンやブリュッセルの言いなり」の祖国の現状を憂い、自らをジャンヌ・ダルクに、ブリュッセルを当時フランスに圧政を敷いたイングランドになぞらえて、脱緊縮を訴えた。
 一方左派は、オランド政権下ですら効果的な政策が打ち出せず、右派が勢いづくだけにとどまったことへの失望を表してか、沈滞ムードが漂っていたという。

〈ギリシア-緊縮の痛みに国民は青息吐息。しかし、巨額融資と引換えにさらなる痛みが〉
 ギリシアでは、前回の総選挙で第2党に躍り出、EUからの救済策を危うくふいにしかけた急進左派連合(シリザ)のツィプラス党首が、今回のメーデーでも、民衆に反緊縮に立ち上がるよう呼びかけたという。
 財政再建中とはいえ、失業率が27%に達し、若者では約60%に上る同国。当局は今年、混乱を割けるために、ギリシア正教の復活祭とぶつかることを口実に祝日をずらすなどの策を講じたが、結局、各機関がストを決行。官民2大労組は抗議集会も開いた。
 しかし、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)からの、28億ユーロ(約3600億円)という待望の巨額融資を受けるためには、公務員のさらなる削減などの断行が求められている。

 このほか、デンマークでは、ヘレ・トーニング=シュミット首相が水鉄砲で水を浴びせられ、演説をブーイングで遮られるなどの騒動があったという。
 ただし、こうした騒動や、反緊縮派による熱烈な先導があったにもかかわらず、各紙は総じて、欧州全域で、厳しい経済状況において、当局や識者が予想したほどには、一般大衆は「盛り上がらなかった」と報じている。

【怪我人続出のトルコ、「よりよい生活」を賭けて戦うインドネシア】
 一方、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、警官と民衆の衝突で、過去数十人の怪我人を出したことでも知られるトルコと、希望を掴み取ろうとする活気に満ちたインドネシアのメーデーを取り上げた。

 今年、トルコ当局は、毎年メーデーの大規模集会が行われるイスタンブール中心部のタクシム広場でのデモ開催を、改修作業中につき安全確保が困難との理由で禁止する措置を取った。しかし、それも虚しく、1日には投石するデモ隊と放水・催涙弾で対抗する治安警察が衝突。10人前後が負傷し、病院に運ばれたという。

 インドネシアでは、首都ジャカルタを中心に、各地で労働者がデモ隊を組み練り歩いた。特に叫ばれたのは、右肩上がりの成長を続けるインドネシア経済の「恩恵」が「低賃金での重労働」に明け暮れる労働者に届かないことへの不満だ。人々は、賃金上昇と待遇改善を求め、政府が検討しているガソリンへの補助金削減を、生活をさらに圧迫するものとしてつるし上げたという。
 ユドヨノ大統領は、デモの牽引役である全国中央組織「インドネシア労働者評議会」の要求に応じ、来年からの「メーデーの祝日化」を表明。歩み寄りの姿勢を見せたものの、そのような小手先技では民衆の納得は得られなかった模様だ。

 総じて、欧州の沈滞ムードの漂う現状と、トルコやインドネシアの活気の対比が鮮やかに浮き彫りになる報道となった。

Text by NewSphere 編集部