【世界の軍事費】欧米は減少、中露は増加 今後の動向は?

 世界の軍事費の流れが、欧米中心から、中国・ロシアを中心とした新興国へとシフトしているようだ―――。

 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が発表した報告書によると、2012年の世界の軍事費は、前年比0.5%減の1兆7500億ドル(約173兆円)となった。1998年以来初の減少である。欧米では10%前後の減少となった半面、中国やロシアなどが大幅に予算を増加。そのため、全体の減少幅は少なくなっている。
 海外各紙は、変化する世界の軍事状況についてまとめている。

【欧米では減少するも、それ以外の地域では増加】
 ブルームバーグ紙によると、世界1位の米国の軍事費は、前年比6%減の6820億ドル(約66兆円)。2位の中国が、同7.8%増の1660億ドル(約16兆円)になったとはいえ、いまだに2位以下を大きく引き離している。続いて3位のロシアは、16%増の910億ドル(約9兆円)で、上位15ヶ国の中では最大の増加をみせた。4位の英国は0.8%減の608億ドル(約5.9兆円)、5位の日本は0.6%減の593億ドル(5.7兆円)であった。

 冷戦終結以降、世界の軍事費は激減したものの、90年代半ばから徐々に増加し、2001年に米国で起きた9.11事件以降は、さらに増加に拍車がかかっていたとニューヨーク・タイムズ紙は報じている。
 しかし欧米では、イランやアフガニスタンにおける軍事作戦の終了や、各国の緊縮財政によって、減少傾向にあるという。ブルームバーグ紙によると、欧州では37ヶ国中20ヶ国が、2008年に比べて10%減となっているようだ。少なくとも2〜3年は、回復の見込はないという。

 一方、中国やロシアを筆頭に、アジア、中東、中南米、北アフリカ諸国では、軍事予算拡大の傾向にあると各紙は報じている。中国では、2003年より175%増となっている。新興国の予算拡大により、米国の世界シェアは、旧ソ連崩壊後では初となる40%割れとなった。

 軍事費のバランスが世界的にシフトする中で、軍事力の強化を続ける中国やロシアの存在感が大きくなってきており、米国などはアジア太平洋における防衛政策の再考が必要だろう、とフィナンシャル・タイムズ紙は報じている。
 特に、中国が発表している戦闘機などの性能は、米国の予想を上回るという。さらに中国は、最近では潜水艦やミサイル、無人機などの開発にも注力しており、2012年は英国を抜き、兵器輸出国として世界5位に躍り出ている。

【軍需企業、3つの壁】
 これまで軍需産業を牛耳ってきた欧米企業は、今後3つの壁に直面していくとフィナンシャル・タイムズ紙は指摘している。
 まず、自国の財政難で国内市場が縮小していく状況がある。次に、国際市場では、国内以上に激しい競争にさらされている、最後に、市場が拡大しているにも関わらず、中国やロシアでは事業展開がほぼ不可能な事である(中国では外資の販売が禁止、ロシアは国産重視)。

 一方で、ブルームバーグ紙では、「中国が強化している軍事力を実際の戦力展開にどれだけ活用していけるかが注目される」とするSIPRIの見解を取り上げている。予算を拡大し開発を進めているとはいえ、その技術レベルはまだ欧米に比して遅れていると指摘されている。

 世界経済の動向とともに、軍事予算の増減によるパワーバランスの変化が注目される。

Text by NewSphere 編集部