中国鳥インフル ワクチン開発の行方は?

中国鳥インフル ワクチン開発の行方は? 中国で、鳥インフルエンザの感染拡大が止まらない。世界保健機関(WHO)によると、感染者数は11日の時点で38人に増え、うち10人が死亡した。
 今のところ患者の発生は中国東部に限られている。さらに、10年前のSARS流行の教訓を生かし、政府が情報開示の方向性を示しているが、余波はじわじわと広がっているようだ。

【科学者たちの見解】
 科学者たちは、不安を払拭するために、現在、感染経路やウイルスの性質特定、今後の変化の予測、ワクチン開発などを目指し、大規模な研究を続けているという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙とニューヨーク・タイムズ紙は、特に、下記に挙げる三者の研究に注目した。

<ワクチン流通までは長い時間>
 まず、米疾病対策センター(CDC)のインフルエンザ担当科学者のティモシー・ウエキ氏とナンシー・コックス氏。
 両氏は11日の医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)の電子版の論文で、「H7N9型」ウイルスに、抵抗力を失わせ、いくつかの疾病の原因となる遺伝的特徴がある可能性を特に問題視した。
 しかも、鳥はウイルスに感染しても病状を発症しないため、群れのなかでの特定が不可能で、人が感染するまでは発見が不可能と指摘。さらに、これまでH7型の鳥インフルエンザウイルスに対応するワクチンが、ヒトにおいて強い免疫反応をもたらしていないことから、H7N9型向けワクチンの開発は困難だという。
 そのため、ワクチンが流通に至るまでには、長い時間を要するとの考えを示している。両氏は、H7N9型ウイルスが「動物からヒトに散発的に感染する」だけなのか、それとも「インフルエンザの大流行(パンデミック)の始まりを示唆するのか」について結論を留保した。

<鳥から感染?>
 一方、中国の研究チームは、同日、NEJM掲載の別の論文で、H7N9型ウイルスが哺乳類からではなく、鳥類から直接ヒトに感染する公算が大きいとした。
 同チームは、今回のウイルスは、3種の別個の鳥インフルエンザウイルスが「再集合」してできたとの仮説を立てている。新型ウイルスに、北京の野鳥、アヒル、アトリで循環していたウイルスの遺伝子に似た遺伝子が見つかったことを根拠とする説だ。
 ただ、「現在のところ、この再集合が哺乳類の宿主で起こったことを示唆するデータはない」模様。
 なお、同チームが研究に用いたのは最初に死亡が確認された3人の患者(87歳、27歳と35歳)から採取したウイルス。この3人は、高血圧、B型肝炎、それに慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの持病を有していたという。

<かなり危険か?>
 さらに、米メンフィスにあるセントジュード・チルドレンズ・リサーチ病院と、世界保健機関(WHO)とのウイルス共同研究センターで、ディレクターを務めるリチャード・ウェビー氏。
 同氏は電話インタビューで、これまでに見てきたどのウイルスよりも、「H7N9型」はヒトへの感染能力が強く、危険に思えると述べている。しかも、今後、さらに危険性を増す可能性も示唆したという。

【経済面への悪影響】
 一方フィナンシャル・タイムズ紙は、今回の鳥インフルエンザが中国の経済面にもたらしつつある悪影響に注目した。
 上海周辺では、鶏肉の販売が激減し、近郊農家では、月に約100羽だった出荷量がほとんどゼロにまで落ち込んだとの訴えもあるという。特に打撃を受けているのは、中国でもっとも成功している外資系企業の1つであるKFCで、同社を展開する米外食大手ヤム・ブランズは、12日までに売上に深刻な落ち込みがあるとした。

 上海周辺以外では、まだ鶏肉販売への影響は少ないとされる。ただし他職種でも、中国内の企業によっては、海外出張や会議を見合わせるなど、クライアントとの接触を禁じる動きがあるという。
 一方、大手ネット販売業者は、今回のインフル禍を好機と捉えているようだ。SARSの流行当時は、「ネット販売」の認知度は低かったが、人混みへの外出を嫌う人々の琴線に触れ、一気に広まったことを挙げている。

 WHOがヒト-ヒト感染の証拠はないと否定はしても、今後の変質など、未だ「正体不明」の観が強い「H7N9」。政府が「最新の情報」を秘しているのではないかという疑念と相まって、庶民の不安の渦が強まる一方であることが強く示唆された。

Text by NewSphere 編集部