北朝鮮、対韓ホットライン遮断 その真意とは?
27日、北朝鮮は韓国との軍事ホットライン(通信回線)を遮断すると発表した。核実験強行に対する国連の制裁強化決議をめぐる緊張下で、北朝鮮はすでに赤十字のホットラインと在韓米司令部とのホットラインを遮断している。今回の措置によって、南北間に残っている電話回線は、民間の航空機関連のものだけとなった模様だ。
今回、最後の公式電話回線を遮断する理由として、北朝鮮は、韓国と米国の共同軍事演習を挙げ、27日には国営の朝鮮中央通信が「戦闘態勢に入ろうとしている両国間にもはや通信手段は必要ない」とのコメントを発表したという。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、遮断されたホットラインは、主として南北が共同で運営する北朝鮮国内の開成工業団地への、韓国人ビジネスマンの出入りについて話し合うために用いられているものとのこと。南北協力の象徴である同事業や多数の民間人に影響を及ぼしかねないとして、韓国政府は事態を重く見ているという。
【ホットライン切断の背景】
韓国では折しも朴大統領が、選挙公約通り、南北関係の改善に向けて新政策計画を公表したばかりだった。計画では、双方の政府・民間レベルでの人道支援を継続するほか、離散家族の再開を含む各種の交流プログラム再開に向けて、北朝鮮との協議を求めるとしている。さらに、「安全性を担保する」という条件付きで、金剛山観光の開始も視野に入れられていたという。これは南北調和の象徴であり、北朝鮮にとって貴重な外貨の獲得源ともなっていたが、2008年に韓国の民間人観光客が軍に射殺されて以来中止されていたものだ。
実際、韓国は先週、朴大統領が就任して以来初の人道援助の集荷を承認していた。資金的にも、2012年には、公的には国際機関を通じて23億ウォン、民間としては118億ウォン相当の人道援助を供与している。
しかし北朝鮮にとっては、朴大統領の穏健姿勢はさておき、同時に表明した「毅然とした姿勢」が、「好戦的」と映った模様だという。北朝鮮祖国平和統一委員会は、朴氏の「北朝鮮が挑発行為や平和を害する行動を取るならば、わたしたちは代償を払わせなければならない。約束を守るならば、韓国もそれにならう」という発言や、最近、北朝鮮は核開発よりも自国民の生活向上に専心すべきだと述べたのを「許しがたい挑発」として、「彼女(朴大統領)が売国奴の李と同じ対決の道を歩き続け、朝鮮民主主義人民共和国の警告を無視するとしたら、悲惨な破滅に遭うだろう」と警告したという。
【北朝鮮の脅しの意味】
北朝鮮の朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は、国家は「重大な軍事行動」を計画しており、そのなかにはアメリカや韓国に対する「先制的核攻撃」が含まれるとまで述べたとされる。
こうした事態に対し、BBCは「北朝鮮の脅しを加速させているものの正体」と題し、一歩踏み込んだ分析を行った。
BBCは、ロケット発射、核実験の実行、米韓に対して繰り返される攻撃的な声明に対して、米韓が行う「合同軍事演習」の「意味」が、米韓などの世界諸国にとってと、北朝鮮にとってとではまったく違う可能性を示唆した。
同紙によれば、アメリカ、韓国にとっては、合同軍事演習を行う意味は明らかで、「同盟関係を確認するため」であり、最近の北朝鮮の好戦的姿勢からすれば「行って当然」ですらある。一方、北朝鮮の米韓への攻勢は、主として「若く、その地位にふさわしい業績を持たずして」最高指導者の地位に就いた金正恩氏が、軍を掌握し、国威を掲揚するためとの見方が強い。
ただし、北朝鮮の動向を「国威掲揚のためのブラフ」と切り捨てるのはあまりにも危険だと同紙は指摘する。それというのも、1950年の朝鮮戦争が、北朝鮮の「軍事演習」の隠れ蓑を着た「奇襲」で始まったという歴史があるためだ。そうした経緯を持つ同国が、相手にその意図ありと勘ぐったとしても驚くにはあたらないといえるという。さらに、このまま疑心暗鬼の膠着状態が続けば、追い詰められた金正恩氏が、「言動を一致」させざるを得なくなりかねないと指摘した。
同紙は、今後の状況を占う1つの鍵は、「4月末の軍事演習の終了」だと分析した。北朝鮮は、過去にも、米韓の軍事演習に絡み、電話回線を遮断したことがあるが、緊張が沈静化すると復旧した。今回、軍事演習終了時に北朝鮮がどのようなレトリックを用いるか。ホットラインの復旧はあるのかが、今回の緊張の「重み」を計る指標となるという。