崖っぷちのエジプト情勢、“対話”で解決なるか?

崖っぷちのエジプト情勢、“対話”で解決なるか? モルシ政権に対する反対運動が激化しているエジプトで1月31日、対立しあう与野党が初の話し合いを行った。会合はイスラム教の最高権威「アズハル・モスク」の指導者タイイブ総長が仲介となって行われ、大統領を支持するムスリム同胞団系の自由公正党幹部や、 複数の世俗政党からなる野党勢力「救国戦線」の指導者で国際原子力機関の元事務局長エルバラダイ氏など、ほんの数日前までは場を同じくすることが想像すらできなかった面々が出席した。今後は平和的な姿勢で、各地のデモや暴力的活動を沈静化していくことで合意したという。
 海外各紙は今回の会合の可能性や、モルシ大統領の反応などを報じている。

【平和への兆し?】
 ニューヨーク・タイムズ紙によると、若手革命家らが中心となって今回の会合を実現させたという。その中には、青年グループ「4月6日運動」のリーダーや元同胞団メンバー、元グーグル社員のインターネット活動家で2011年のエジプト革命で英雄と呼ばれたワエル・ゴニム氏などが名を連ねている。彼らはエジプトを暴力的なスパイラルから脱却すべく平和的な方法を模索していく考えだという。
 また、エルバラダイ氏のような重鎮も変化を見せている。会合の後には「国民の信頼を再建するために各自が善意をもってできることを行う」と述べ、状況の改善に楽観的であるとしている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、同氏はツイッター上でも対政府強硬姿勢を転換し、大統領に会談を呼び掛けながら、暴力を停止し話し合いを開始するようすべての政治勢力に訴えているという。一方、同氏が指導する救国戦線は、モルシ大統領に対して、全政党参加による挙国一致内閣の発足や、イスラム色の濃い憲法の改正作業に当たる委員会の設置、大統領が任命した検察官の罷免などを求めており、同意を得られない限り話し合いはないとしている。

【モルシ政権の状況理解度はどれほどか?】
 フィナンシャル・タイムズ紙は、情勢悪化の原因としてモルシ政権のイスラム色の濃さを取り上げている。ムバラク政権退陣までの30年間は、国の治安維持はイスラム教徒を制圧し支配することで成り立っていた。それが、革命によりトップが代わることで、政治や社会的価値が急速に変化していき反発を巻き起こしているという。特に、治安を守る内務省からの反発が強く、以前の敵が天下をとったことに適応できずにいるようだ。昨年のデモにおいても、警察が非協力的であったためムスリム同胞団が沈静化に向けて出動し、国民からの反感が強まったという。アナリストは、革命直後に存在していた社会的コンセンサスが今や色あせ、国民の目には実権を握る存在が不透明となってしまっていると分析した。
 今後の行方はモルシ氏や同胞団の状況理解度によって明暗が分かれるとニューヨーク・タイムズ紙は報じている。彼らが悪化する情勢の深刻さや支持率の著しい低下に気づき、姿勢を変えていくことができれば望みはあるだろうとした。

 なお当のモルシ氏は、訪問先のドイツで、メルケル首相から人権や宗教の自由を尊重し国家に貢献できる政治作りを促された。国外からの支持獲得を狙う中でも厳しい状況に追い込まれているものの、現時点では「エジプトは法治国家となる」ことを強調するに留まった。野党の要求に対しても、引き続き「エジプトは複数政党制の民主国家であり、議会選挙後に新政権が発足する」と述べ、議会選挙前の挙国一致内閣発足を拒否する姿勢を変えていない。

 こうした努力にもかかわらず、1日夜には、野党側の呼びかけとみられる反政府デモが勃発。一部が暴徒化し、治安部隊との衝突で1人が死亡した。野党勢力の対政権姿勢は再び強硬化しつつあると報じられている。

Text by NewSphere 編集部