モルシ大統領、国民の信頼を取り戻せるのか?

強硬姿勢崩さぬモルシ大統領、国民の信頼を取り戻せるのか? エジプトのモルシ大統領は6日、国民に向けてテレビ演説を行った。11月末に大統領権限を大幅拡大、憲法草案の強行採決、その国民投票を今月15日に行う、という一連の強硬策への反発デモが拡大し、大統領支持派と激しく衝突。ついに死者が出た顛末について、国民に説明するとともに、8日の対話の実施を表明。反対派への参加を呼び掛けた。
 海外各紙は一斉に、モルシ政権への不信感が募るエジプトの危機的状況を報じた。

 フィナンシャル・タイムズ紙によれば、数万人規模の激しい衝突は5日、大統領府周辺で徹夜の座り込みに入った反対派を、ムスリム同胞団が排除しようとしたのをきっかけに起きた。使われたのは主に焼夷弾や石だったが、実弾も紛れていた模様。ムスリム同胞団は、死者はすべて同胞団側だと発表した。

 ホワイトハウスが明らかにしたところでは、オバマ大統領もモルシ氏に電話で「暴力の応酬への憂慮」を示し、「両サイドの指導者が、暴力をあおるのではなく、暴力の抑止を呼びかけるべきだ」と述べたという。

 モルシ大統領はこの一件につき、「革命を転覆させようとする腐敗した実業家、外国の敵、イスラム教徒を選挙に勝たせるくらいなら革命を頓挫させたほうがマシだと考える敵対勢力のリーダー、民主的に選出された議会を解散に追い込んだ前歴のある、ムバラク政権の亡霊である判事たち」の責任を糾弾。「金で雇われた武装集団」が死者を出したと力説した。一方、15日の国民投票で憲法草案が否決されれば、新たな委員会を設置し策定をやり直すとして、一定の譲歩を示しつつ、争点である自らの強権発動の憲法令については「憲法起草委員会と国民投票を守り、エジプトに安定をもたらすために」必要だと、撤回しない構えを見せた。反対勢力が求めている国民投票の延期についても、応じない姿勢を堅持している。

 これに対し、反対勢力からは、「国民の要求を無視し、対話への扉を閉ざした」というエルバラダイ発言に始まり、「自己防衛への終始。自陣の暴力の肯定。偽りの対話への招待」などの手厳しい批判が相次いだ。デモに参加した民衆からも、「「外国の敵」や「武装集団」などいなかった、単なる責任回避だ」との失笑や怒りの声が上がったという。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、一部には「大統領はずっと対話的だ。反対派は烏合の主で、話し合いにならないだけ。そもそも、大統領の政治姿勢よりも人気に脅威を感じ、闇雲に反発しているに過ぎない」という擁護的な意見もあるとされる。

 しかし、肝心の争点について、モルシ大統領の一歩も引かない構えは、国民に「独裁者独特の硬化姿勢」という印象を与え、革命前夜のムバラク氏の姿を彷彿させているという。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、「大統領は国を団結させることも引き裂くこともできた。大統領は、内戦を招く決断を下したようだ」というカイロの人権機関関係者の談を報じ、対話の実現の危うさと、依然続く、一触即発の情勢を示唆した。

Text by NewSphere 編集部