エジプトの新憲法は国民の不満を抑えられるのか?

エジプトの新憲法は国民の不満を抑えられるのか? 30日午前、大統領権限の強化に対する反発が吹き荒れるエジプトで、憲法起草委員会が新憲法草案の強行採決を行い、可決した。モルシー大統領は、12月半ばにも、この是非を問う国民投票を行うものとみられ、成立すれば大統領権限を放棄する見込みだ。
 この動きについて海外各紙は、新憲法採択の経緯、正当性、内容を俎上に載せた。

 まずウォール・ストリート・ジャーナル紙は、主に採択の経緯と正当性に着目した。革命後、エジプトは、大統領に集中していた権力を分散し、独裁国家からの脱却と真の民主主義の確立のために、憲法の改定を求めてきた。しかし、ムスリム同胞団出身のモルシー氏が大統領の座につき、イスラム系委員が4分の3を占める憲法起草委員会に国家の礎をゆだねることに、リベラル派や宗教的マイノリティの不安が噴出。意見が採りあげられないことを理由に、辞任やボイコットが相次いでいた。今回も、26の空席のうち、11席を急きょイスラム系委員で埋めることで、なんとか採決定足数の85を満たした格好だという。

 これに対し、全国民の意見を反映するべき憲法が、このような少数派不在の委員で強引に作り上げられ、強行採決することへの疑問の声が上がっている。さらに、元大統領候補のエルバラダイ氏が、これを「みじめな憲法」とこき下ろし、正当性がなく長持ちしないだろうと述べたことも紹介された。ニューヨーク・タイムズ紙も、人口の10%を占めるとされるコプト教会が、イスラムの理のみが反映されているとして、正当性を認めていないと報道した。

 内容については、「革命の要請を満たしている」「大統領を超える議会の権を認めている」「ある程度中道的」などと各紙とも一定の評価をしている。しかし、「イスラム色が強い」「司法権限に制限を加えている」「自由の保障が確実ではない」など、払拭しきれない懸念材料も挙げられた。具体的には、フィナンシャル・タイムズ紙は、人権監視の研究者が、「いかなる個人に対してでも、侮辱や軽侮の表明は許されない」という条項に着目し、表現の自由が侵されかねないと懸念を示したことを紹介。ニューヨーク・タイムズ紙は、差別からの自由を定める条項に、女性や宗教的マイノリティの保護が明言されていない点に警鐘を鳴らしたほか、「社会」が家庭の価値やモラルの水準を維持する役を担うとする条項にも、「社会」とはなんぞやという疑問が残るとした。

 各紙とも、モルシー大統領の禁じ手ともいえる強権発動と、権力の一極集中に対する民衆のアレルギー反応を抑えるためともみられる性急な憲法草案採決が、真の問題解決に結びつくかという点については否定的だ。「内容もさることながら、他国の憲法を入念に検討し、透明性のある手続きによって、真に新しい憲法を練り上げられないままに、旧憲法を踏襲してしまったことに最大の問題がある」という民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)関係者の談が、各紙のトーンを象徴する報道といえる。

Text by NewSphere 編集部