ノーベル物理学賞決定―「量子コンピュータ」実現加速を評価―

 9日、今年のノーベル物理学賞が発表され、量子物理を研究するセルジュ・アロシュ教授(コレージュ・ド・フランス)とデビッド・J・ワインランド博士(、アメリカ国立標準技術研究所)が受賞した。
 背景として、量子(光子=光の粒子や電子など、波動と粒子の性質を併せ持つ微小粒子)は外界との相互作用によりその性質を失うため、観測すら困難であった。しかしアロシュ教授は、2枚の鏡の間で光子を反射させ続けておき、その間に別途送り込んだ原子と相互作用させることで、光子の個数を数えることに成功した。また、同じ光子に同時に異なった振動をさせる実験などにも成功している。
 ワインランド博士は電場中にベリリウムイオンを閉じ込め、特殊なレーザー光で冷やすことで、ベリリウムイオンの最外殻電子が同時に2つの軌道上に存在する状態を実現した。このようなイオンを計算素子に用いた量子演算の実験にも成功している。
 これらの成果は、きわめて演算能力の高い「量子コンピュータ」や、それを利用した高度な暗号技術、「宇宙誕生から現在までに5秒しか狂わない」という超高精度原子時計などの実現に寄与するとみられる。賞を選考するスウェーデン王立科学アカデミーでは、「古典的コンピュータが前世紀にそうしたように、量子コンピュータは今世紀、我々の日常生活を劇的に変えるだろう」と評している。

The New York Timesの報道姿勢―“シュレディンガーのネコ”助かる―
 量子論の有名な喩えを用いて、「ゾンビ状態だった“シュレディンガーのネコ”を生き返らせた」などと賞賛した。
 アロシュ教授は光(光子)を隔離し物質(原子)でそれを観測、ワインランド博士は物質(イオン)を隔離し光(レーザー)でそれを制御した。光と物質の相互作用に関してそれぞれ逆のアプローチをしており、量子コンピュータに量子データの「保存」と「読み取り」両方が必要な点に照らし、有意義だとしている。
 原子時計については、「歴史的に、時計が良ければナビゲーションも良くなります」とのワインランド博士のコメントを紹介している。博士によれば、遠大な革命的試みではあるが研究は着実に前進しているという。

Financial Timesの報道姿勢―SFの実現―
 量子論の最も難解な理論的側面を実用テクノロジーに結び付けたとして賞賛し、「SFのアイデアでしかなかったもの」から「ちょっと前まで夢にも見なかったような新テクノロジーへの可能性」を示すに至った、とする評価の声を伝えている。

The Wall Street Journalの報道姿勢―幽霊粒子の制御に成功―
 幽霊のようにとらえどころのない粒子を見事に制御したとして賞賛している。量子コンピュータは、同時に複数の状態をとれるイオンを多数使用することで飛躍的に演算能力を増し、従来のコンピュータをゴミにする、と解説している。

Text by NewSphere 編集部