まるで人間?荷物を仕分けるロボット、驚きの進化 フィギュアAIの挑戦

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 アメリカの大手メーカーが開発した人型ロボットが、短期間で飛躍的進歩を見せている。この会社が公開した最新のビデオには、物流倉庫でまるで人のように巧みに荷物を仕分けるロボットの姿が映っている。数か月前にはできなかった作業を学習し、驚くべき適応力を示しており、人間の労働を代替することが期待されている。

◆AIモデルで進歩 人らしい動作を学習
 このロボットは、「ヘリックス」と呼ばれる高度な視覚言語システムを使って開発した「フィギュア02」というモデルだ。物流倉庫で荷物を仕分けることができ、今年初めに公開された映像では、さまざまな荷物をサイズ、形状、硬度に応じて扱い、流れ作業をこなす様子が紹介されていた。

 それからわずか3か月後に公開された映像では、さらに多様な荷物を細かく仕分けるロボットの姿があった。フィギュア社によれば、ロボットは現在、精度を維持しつつ、1つの荷物にかかる時間を以前より1秒早い4秒強に短縮しているという。また、95%の精度で出荷ラベルをスキャン用に正しい方向に向けることができており、今年初めと比べ、25ポイント向上している。さらに、掴み方を臨機応変に調整することで、柔らかい袋を反転させることもできる。

 映像のなかで目を引くのは、膨らんだプラスチック包装の表面をなでるように平らにする動作だ。これはバーコードがスキャナから完全に見えるようにするためで、実演から学習している。このような適応的な動作は、エンドツーエンド学習によるものだという。ロボットが一連の動作を学習する場合、従来は各ステップを段階的に覚えさせる必要があった。これに対し、エンドツーエンド学習では、すべての動作を1つの大きなネットワークでまとめて処理することで、一括して学習できるようになったという。

◆400億ドルの評価額で資金調達
 現在、人型ロボットの開発をめぐっては、業界の主導権を握ろうと複数の企業が競い合っている。そのなかの一つ、フィギュア社は2022年、ブレット・アルコック氏によって「フィギュアAI」として設立された。同社はこれまでに7000万ドル(約100億円)を調達し、2023年に最初の人型ロボットを発表。その後も大手IT企業や個人投資家から資金を集めてきた。テック系メディア『ビルト・イン』によれば、フィギュア社は単なる作業の自動化にとどまらず、人間並みの推論力を備えたロボットの開発を目指しており、それによって人間の生産性を高めることを狙っている。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、フィギュア社は2029年までに20万台以上の人型ロボットを工場の組み立てラインや家庭に展開し、累計で90億ドル(約1.3兆円)の売上を見込んでいるという。そのビジョンをもとに、同社は今年2月、約400億ドル(約5.9兆円)の企業評価額で新たな資金調達に乗り出した。

 しかし、実際には道のりは遠い。昨年の売上はゼロで、生産中のロボットはわずか数十台にとどまっている。2024年初頭にBMWと提携し、初の商業顧客としてロボットを出荷したが、実際の現場での活用は限られていたとされ、投資家向けの「売り込み材料」として使われているとの見方もある。その実態については懐疑的な声も少なくない。

◆実用化はまだまだ先? 課題山積
 ニュースサイト『フューチャリズム』は、フィギュア02が荷物を仕分ける様子を「ロボット工学における驚くべき偉業」だと評している。限られた環境とタスクにおいてではあるものの、ロボットが人間並みの作業をこなせる技術がここまで進歩したことを示す好例だという。一方で、これがすぐに人間の労働を本格的に代替できるとは限らず、現実の作業現場で求められるコスト効率や信頼性をクリアするには、まだ高いハードルがあるとの見方も示している。

 ITテクノロジーレビューは、人型ロボットの実用化には依然として多くの課題があると指摘している。高出力の動力や大容量のバッテリーが必要となるうえ、ロボットがより力強くなるにつれて、安全性への配慮もより厳しく求められるという。また、研究室内でうまく機能する技術が、そのまま商業環境で大規模に活用できるとは限らないとし、研究と現実の間には大きな隔たりがあるとも述べている。職場での人型ロボットの導入は不可能ではないが、実現にはまだ時間を要するだろうという見方だ。

Text by 山川 真智子