火星をどうやって住める星に? 最新のテラフォーミング研究
NASA / Wikimedia Commons
火星の「地球化」を目指すテラフォーミングの研究が、SF物語の域を超えてより具体的な研究段階に入っている。最新の論文では、微生物の活用や大気改造技術などの手法が提案されている。
◆光合成で酸素を生成
パイオニア・リサーチ・ラボとシカゴ大学の研究者らが火星テラフォーミングに関する展望を示した論文「The case for Mars terraforming research(火星テラフォーミング研究の論拠)」を執筆し、ネイチャー・アストロノミー誌に掲載された。同研究は、火星をより地球に似た環境にするために物理的・生物学的に何が実現可能かを論じている。
論文によると、火星を居住可能にするためには温度を上げ、大気を厚くする必要がある。最初のステップの一つとして、遺伝子操作された微生物を使用して光合成を通じて酸素の生産を開始することが挙げられる。この手法により時間をかけて液体の水を支え、最終的にはより複雑な生命を支えるのに十分な酸素を構築できる可能性があるとしている。
◆実現の有無にかかわらず有益な研究
科学ニュースサイト『サイテック・デイリー』に掲載された米ロスアラモス国立研究所の寄稿記事では、この研究が最終的に水の惑星・地球を維持するうえでも役立つ可能性があると指摘されている。研究者らは、火星居住のために開発された技術、たとえば乾燥耐性作物、土壌の効率的な浄化、生態系モデリングの改善などが、地球の環境保護にも恩恵をもたらすと考えている。
論文の著者らは、「火星のテラフォーミング研究は惑星科学にとって重要な実験場を提供し、理論を検証したり知識のギャップを明らかにしたりする可能性がある」と述べている。寄稿記事によると、大規模なテラフォーミングが実際に行われるかどうかにかかわらず、こうした研究を継続的に実施することで、科学的に重要な進歩が期待できるという。
◆既存研究でもさまざまな「地球化」の案
既存の研究によっても、テラフォーミングの実現可能性が真剣に検討されている。米科学誌サイエンス・アドバンシスに昨年掲載された論文によると、火星の塵から製造した導電性のナノ粒子を大気中に散布することで、わずか数か月で火星全体の気温を10度以上上昇させる可能性が示された。ノースウェスタン大学のサマネ・アンサリ氏が主導する本研究では、火星に豊富に存在する鉄とアルミニウムを用いて長さ約9マイクロメートルのナノロッド状微粒子を製造し、これを大気に散布する案が提案されている。
一方、より大胆なアプローチも提案されている。ポーランド科学アカデミーのレシェク・チェホフスキー氏の研究によると、火星の大気圧を人類の居住に適したレベルまで引き上げる手段の一つとして、カイパーベルトなどに存在する氷に富んだ天体を火星に衝突させ、大気中に揮発性ガスを供給する方法が検討されている。研究では、これらの天体を核融合炉を動力源とするイオンエンジンで推進・誘導するシナリオが想定されている。
火星を居住可能な惑星に作り替えるアイデアがさまざまな角度から検討されている。