生体認証を使った仮想通貨「ワールドコイン」、可能性とリスクとは
眼球の虹彩を使った生体認証と仮想通貨のエコシステムである「ワールドコイン」が7月24日にローンチ。運営会社が主張するようなオンラインIDの課題や経済格差の解決の糸口となるか。
◆ワールドコインとは
ワールドコインは、グローバルに包括的なID認証と金融ネットワークの構築を目指すプロジェクトで、「ワールドID」と呼ばれる生体認証の仕組みと、ワールドコイン(WLD)というデジタル通貨(トークン)の2つの要素で形成される。そして、ユーザーは、ワールドアップというアプリを通じて、この二つの仕組みを利用する。これらのサービスとアプリの開発を手掛けるのが、オープンAIのCEOであるサム・アルトマンが創業したテック企業ツールズ・フォー・ヒューマニティだ。
ワールドコインの活動の中心となる概念が、「プルーフ・オブ・パーソンフッド(proof of personhood)」というもので、つまり、その個人が(ロボットではなく)実際の人間であること、固有の存在であることの証明である。これはひとたび確立されれば、現実世界での身元を明かすことなく、自分は実在の人物であり、別の実在の人物とは違うのだと主張できるようになる。(ワールドコイン白書)
ワールドIDは、眼球の虹彩スキャンをデータ化することで、本人確認を行うという仕組み。ワールドIDを取得するために、個人はオーブ(Orb)と呼ばれる独自のスキャンデバイスがある場所に赴いてスキャンを実行する。ワールドIDは、パスポートなどとは違い、いわゆる個人情報を明かさずに、生体認証のみを通じて本人確認を行う。今回、ワールドコインが正式にローンチしたことで、人々はアプリをダウンロードし、世界各地に設置されたオーブがある「登録場所」に赴き、自分の虹彩スキャンを実施することでワールドコインのエコシステムに参加できるようになった。
ワールドコインのサイト上では、リアルタイムの登録数が公開されている。ワールドコインの試験運用が開始されたのが2021年の5月。正式ローンチ前の2023年7月13日に登録ユーザーが200万人を超えた。過去1ヶ月の間に稼働したオーブは346台で、過去7日間で25万人が新規登録を行った。
オーブは、アメリカだけでなく、アルゼンチン、ブラジル、チリ、フランス、ドイツ、香港、インド、日本、ケニア、韓国、メキシコ、ポルトガル、シンガポール、スペイン、ウガンダ、アラブ首長国連邦、イギリスに設置されている。いわゆる先進国だけでなく、ケニアやインドといった新興地域でも設置されているというのが特徴的である。ワールドIDに登録すると、トークン25WLDが付与されるというインセンティブがあり、一部の国では登録のために行列ができるといった事態も起こった。しかし、ケニアなどではその後、国民の安全性が担保されるまではワールドID登録を停止するという判断が下された。
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