グーグル解雇のAI研究者 ティムニット・ゲブルの挑戦 研究所設立の意図とは
◆ビッグテックに抗う調査研究所
グーグルから追い出されてから1年後の、昨年12月2日、ゲブルは独自のAI調査研究所であるDAIRを創設した。DAIRは、AIは(コントロールできない)必然的なものではなく、AIが及ぼす危険性は回避できるものであり、AIの構築と展開に多様な視点と思慮のあるプロセスを取り入れることで、AIが有益なものとなりうるという信念に根付いた活動を行う研究所を目指している。研究所設立の意義の一つは、倫理や個人のウェルビーイングよりも利益が優先される構造からの独立、つまりAIの可能性やリスクを営利目的とは切り離すという点だ。DAIRは、これまでにフォード財団、マッカーサー基金などから370万ドルを調達している。一方で、ゲブルはガーディアンへの寄稿記事の中で、フィランソロピー団体からの資金調達に関しての課題意識も明らかにしている。ゲブルのような人物を追い出したビッグテックのシステムのリーダーたちは、大規模なフィランソロピー団体やAI研究の未来に関する政府のアジェンダをもコントロールしている。潜在的な寄付者を敵に回すようなことがあれば、彼女自身だけでなくDAIRのスタッフも失職のリスクを負うことになる。倫理研究を進めるためには、独立した公的資金が必要であるとゲブルは主張する。
クオーツのインタビューでは、DAIRの運営に関しては、シリコンバレー的な長時間労働に関して虚勢を張るようなやり方に対するオルタナティブとして、人々の健康とウェルビーイングを重視するとゲブルは語っている。また、調査のアプローチに関しては、DAIRの名前にもあるように「分散型(distributed)」というコンセプトを重視する構想だ。それは地理的な意味でのダイバーシティや、人種的なダイバーシティを意味する。シリコンバレー的な白人男性偏重の視点に対して、多様な視点を取り入れることを重視していることがうかがえる。DAIRのリサーチ・フェローの一人目であるラーセテ・セラファ(Raesetje Sefala)は、サテライト画像を活用し、南アフリカにおける空間的なアパルトヘイトの遺産に関する研究を実施している。DAIRは、研究成果に関しても、一部の関係者だけでなく、一般の人がアクセスしやすいような形での発信をしていく予定だ。
AIに関しては、コントロールできないものという誤解もあるが、人が作ったものであり、社会を破壊しないような形にデザインすることができるものだとゲブルは言う。だからこそ、AIの研究と開発は多様な視点を取り入れた、デモクラティックなものである必要があるのだ。
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