米でも人気の中国発アプリ「TikTok」 熱中する若者、警戒する親・セキュリティ専門家

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 ティーンの視点から見ると、ティックトックは自己表現のための非常に使える新たなツールであり、バカげた、騒々しい、奇をてらったコンテンツが大好きなユーザーたちが誰にも遠慮せずに集える場所だ。

 ただし、それ以外のユーザーにとってこの中国資本のオンライン・ビデオサービスは、一部の親の目には不健全に映るビデオや歌をまき散らし、さらには中国政府に情報をシェアしてスパイ活動を促進しかねない、得体のしれないアプリだ(ティックトックの運営企業は、スパイアプリ疑惑を否定し、内容の健全化にも取り組んでいると主張している)。

 ティックトックの仮想ワールドへようこそ。ティックトックは、ユーザーが15秒以内のショートビデオを作成・共有できる、新たなソーシャルメディア・パワーハウスだ。「そこはまさに、いわゆるZ世代の集う場所、彼らの遊び場です」と、e.l.f.コスメティックス社のマーケティング主任、コーリー・マーキソット氏は言う。

 しかし、ティックトックのユーザーがその魅力に惹かれているのとは裏腹に、ティックトックはアメリカの国家安全保障レビューのなかでも取り上げられ、国防総省の禁止リストにも入っている。アメリカの政治家たちは、中国資本のティックトックがもたらす国家安全保障上のリスク、中国当局による検閲リスクを懸念している。

 ここまでティックトックが注目されるのは、それが中国資本のソーシャルメディアとしては史上初めて、欧米諸国への本格進出に成功したからだ。アメリカを含めた各国で大ブレイクしたティックトックは現在、旧来型のメディアとの関わりが希薄な子供やヤングアダルト層をターゲットに取り込みたいと考える著名人や企業の間で注目されており、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)もアカウントを開設したほどの人気ぶりだ。全米で人気を誇るメキシカン グリル・チェーンのチポトレ、カリスマ女優のリース・ウィザースプーン、そしてワシントンポスト紙もティックトックのユーザーであり、過去にはアメリカ陸軍さえもが兵士募集を目的にティックトックを利用していた。

 調査会社の「センサータワー」は、ティックトックのアプリのダウンロード数を16億5,000万回と推定。2019年には、アップルおよびグーグルのアプリストアにおいて「ワッツアップ」に次ぐ第2位のダウンロード数を記録した。また調査会社「イーマーケター」は、アメリカ国内のティックトックのユーザー数は、2019年の時点でそれまでの約2倍にあたる3,720万人に達したと推定している。

 多くのユーザーの心を掴んで離さないのは、ティックトックが持つバカバカしさと飛びぬけた娯楽感だ。利用も簡単で、アプリをダウンロードし、好みの動画をスクロールして探すだけでよい。そこではとくに友達を探したり、見たい動画を検索したりする必要もない。あえて自分から見つけに行かない限り、政治をめぐる白熱した議論を目にすることもなければ、友人のバケーション自慢を見せつけられることもない。代わりにそこでユーザーたちが目にするのは、ティックトックが個別のユーザーに合わせてチョイスしてきた、どこかの他人が投稿した面白おかしい流行りの動画の数々だ。そこにフィードされてくる内容は、使用を重ねるごとに、ユーザーに応じてさらにパーソナライズされる。

 もちろん、すべてが政治と無関係というわけではない。さらには、どのソーシャルメディアにありがちな、誤解をもたらす情報の拡散問題もやはり存在する。これに対してティックトック側は、誤解をまねく有害情報は禁止対象だと述べている。

 ティックトックは広告収入で利益を上げおり、何かのキャンペーン動画をユーザー側が明らかな広告として識別できないケースもある。利用する各企業側は、独自の動画をここに投稿し、多くのユーザーの参加を促すハッシュタグ付きの「チャレンジ」をスタートできる。ありがちなのは、特定のダンスやムーブメントを取り入れた動画だ。たとえばe.l.f.コスメティック社が実施した「アイスリップス フェイス」のキャンペーンでは、参加ユーザーらはキャンペーンのオリジナル曲に合わせて瞬きし、唇をとがらせる。実際に参加したユーザーが作成投稿した動画の総数は300万、再生回数の合計は40億回を記録した。

 このサービスから生まれた音楽界のスターたちもいる。「オールドタウンロード」でビルボードチャートの1位の最長記録を樹立したリル・ナズ・X もその一人だ。このサービス上でジャンルとして確立しているのは、いたずら動画、ショートコメディー、ファーストフードの舞台裏、そして「グローアップス」と呼ばれる、自分自身をかわいくメイクするビフォア&アフターのショットなど。それ以外のジャンルは、さまざまだ。たとえば、「キム・カーダシアンのクッキングのパロディー」などといったシリーズもある。

 一部のユーザーの間からは、「ティックトックは、自意識過剰なカワイイ・キレイ系の投稿ばかりが目につくインスタグラムよりもずっといい」との声が上がっている。カナダのオンタリオ州シムコーに住む19歳、エミリー・リッチャー氏は、「見栄えの良い写真、人に自慢できること」の投稿にインスタグラムを使用する一方、ティックトックには「ゆるい内容、冗談やいたずら、おかしな仮装」などを投稿し、二つを使い分けている。昨年11月には、彼女が投稿した「投げたピクルスを口でキャッチする」チャレンジ動画がティックトックのトレンド上位に入った。

 中国のスタートアップ「バイトダンス」がティックトックを世界に向けてローンチしたのは、いまから2年以上前のことだ。同社はその後、欧米のティーンズの間で人気を博する別の中国系ビデオサービス「ミュージカリー」を買収し、ティックトックと統合した。ただし、同社が中国国内のみでサービス展開する「ドウイン(抖音)」は、ティックトックとミュージカリーの両サービスとは現在も切り離されている。当局の厳しい検閲制度下に組み込まれた中国のソーシャルメディアサービスは、ごく最近まで、あくまで対象を中国国内のビューアーに限ったものだった。

 フェイスブック、インスタグラム、スナップチャットの各プラットフォーム上で広告展開するなどの手法で急速に認知度を上げたティックトックは、いまではこれらアメリカ資本のソーシャルメディアサービスを脅かす存在にまで成長した。スナップチャットの運営会社は、2019年にティックトックを競合他社のリストに追加した。ライバル各社のサービス機能を模倣する戦略で知られるフェイスブック社は、2018年に「ラッソ」と呼ばれるティックトックに類似したショート動画アプリをローンチし、さらには、ティックトック的なビデオ編集機能をインスタグラムに追加した。そういった企業間の競合問題の枠を超えた大きな社会問題として、投稿動画の一部に性的な内容が含まれていること、中国共産党政権による検閲の問題など、ティックトックをめぐる懸念材料は複数ある。

 子供たちへの影響を懸念し、インドとインドネシアはティックトックを一時禁止した。ロサンゼルス在住の作家で、10歳と12歳の子を持つ母親でもあるアナスタシア・ベイジル氏は、ティックトックに投稿された歌動画の露骨な歌詞や「性的内容を含んだ過激なコンテンツ」を不愉快に感じている。ところが、10歳の娘の親友はティックトックが大好きだ。そのため、自分の娘をその子の家にお泊りさせる際には、その子の母親に対して「うちの娘にはティックトックを使わせないで」と頼んだという。

 ティックトックのクリエイター・パートナーシップの責任者を務めるクッジ・チクンブ氏は、運営側はティックトックが「安全・健全な環境」となるよう全力で取り組んでいると主張する。

 ここまでティックトックの運営側は、投稿可能なコンテンツに関するコミュニティ・ガイドラインを具体的に示してきた。サービス利用に際する年齢確認は行っていないものの、不適切なコンテンツの閲覧を制限するモードを提供し、13歳未満のユーザーのアカウント使用は認めない方針だ。ティックトックの運営企業は昨年、13 歳未満の子どもの個人情報を違法に収集していたとして、当局から570万ドルの罰金を科せられた。また同社は、偽の生年月日を使って作成された13歳未満のユーザーによるアカウントなど、「不適切に作成された」アカウントに関する報告がその他のユーザーから寄せられた場合、該当アカウントを削除すると述べている。

 しかし、セキュリティ専門家の多くは、ティックトックのサービスを使って収集される情報に関する懸念を表明している。広告主に利益をもたらす人々の社会的つながりの情報や、個人の生体認証データ、ユーザーが何に関心を持っているかなどの情報は、敵国のスパイ活動を助長し、反体制活動を行う人々の動向追跡にも応用できる。そのように語るのは、国土安全保障省の元職員で、国家安全保障会議のメンバーも務めたジョン・ダーモディー氏だ。

 国家安全保障上のこのような懸念は、アメリカ当局による中国企業への締め付けや、ドナルド・トランプ大統領が仕掛けた対中貿易戦争とも無関係ではない。アメリカの安全保障当局は、現在、バイトダンス社の運営サービス「ミュージカリー」に関する調査を実施中だ。また最近になって、アメリカ陸軍、海軍、海兵隊において、政府支給の公用電話端末にティックトックをインストールすることが禁止された。

 フェイスブック社のCEO、マーク・ザッカーバーグ氏は、ティックトックが特定の抗議活動に対する検閲を行っているとして批判した。メディア各社の報道によると、ティックトックはこれまでに、特定の動画や投稿トピックを中国政府の検閲規定に沿ってブロックまたは削除したという。

 ティックトックの運営側は、同社は現在そのような措置を行っていないと主張しており、仮に中国政府から要請があったとしても従わないと述べている。同社はスパイ疑惑に関しても否定しており、ティックトックがアメリカ国内のユーザーデータを保管しているのは中国国内ではなくアメリカおよびシンガポール国内だと主張している。

 ただし同社の主張は、すべてが真実だとは受け止められていない。インターネット技術などの監視を行う非営利組織、民主主義・技術センターのクリス・カラブレーゼ氏は、実際には中国政府側が、彼らにとって好ましい結果を得るために「隠然とした圧力をかなりの程度かけることができる」と述べている。

By TALI ARBEL AP Technology Writer
Translated by Conyac

Text by AP

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