「キャッシュレスのみ」店舗はNG アメリカの自治体で弱者保護の動き

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◆いいことばかり それでも完全キャッシュレスは無理
 すでにキャッシュレスを実施している小売店側は、そのメリットをNYTに説明する。レジ待ちの客の列が短縮される、つり銭の用意がいらない、閉店後の現金の集計もいらず、売上金を持って銀行に足を運ぶ必要がなくなる。さらに店内に現金がなければ、強盗などの危険も減るとしている。

 もっともフィラデルフィア市が行った調査では、現金を受け取らない小売店はまだ一握りほどだということだ。キャッシュレスを採用している飲食店のオーナーは、新法自体がいいものとは思わないとしながらも、ビジネスの成功を左右するようなことではないため、現金払いを今後は受け付けると述べている(WSJ)。グリーンリー氏は、そもそもこれまで現金でも効率的に経営できてきたはずと指摘。新しいことを求めているわけではなく、以前の現金取引を受け入れてくれればいいだけだと米CBSに述べている。

◆イノベーションに意外な赤信号 アマゾンの誤算
 全米小売業協会はフィラデルフィア市の新条例や同様の法案に反対で、支払い方法は小売店の裁量で選択すべきだとしている。フィラデルフィア市の商務部のトップも、近代化はフィラデルフィア市があってもなくても必ず起きるのだから、むしろそこに取りこまれるべきとし、新法が一時的なものとなることを望むと語っている(WSJ)。

 この新法にもっとも不満を持つ小売業者はアマゾンだという。CBSによれば、同社は条例案が可決される前に、無人かつデジタルフォーマットでの支払いオンリーという実店舗「アマゾン・ゴー」のフィラデルフィア進出を白紙に戻すと脅しをかけていた。WSJによれば、市はアマゾン・プライムメンバー対象の会員制ビジネスとして、アマゾン・ゴーに道を残そうとしていたようだ。しかし、アマゾン・ゴーで買い物をするのにプライム会員である必要はない。結局除外されないだろうとアマゾン側が市に話し、雲行きが怪しくなっている。

 今のところアマゾンはノーコメントということだ。弱者保護がイノベーションの制限につながった例とも言え、同社だけでなく、多くの革新的企業にも気になる問題となりそうだ。

Text by 山川 真智子