食卓に近づく人工培養肉、年内に市場にも 環境にやさしく進む研究開発

World Economic Forum / Wikimedia Commons

 家畜の幹細胞を培養して作られた、「クリーン・ミート」と呼ばれる肉の製造販売が実現に近づいている。家畜を育てず、可食部だけを培養して作るクリーン・ミートは環境保護の面でも注目されており、その研究開発には著名人や大企業からも資金が集まっている。今年の年末には市場に出せるという製造業者も現れ期待は高まるが、越えるべき課題もある。

◆環境にやさしい未来の食べ物。投資も続々
 投資情報サイト『Motley Fool』は、クリーン・ミートに関するバイオテックは近年大きな進歩を見せており、多くのスタートアップ企業が参入していると述べる。CNBCによれば、ビル・ゲイツ氏やリチャード・ブランソン氏などの著名人や、食肉大手のタイソン・フーズ、穀物メジャーのカーギルなどが、クリーン・ミート製造企業に投資を行っており、非常に将来性のある分野として期待されている。

 クリーン・ミートが注目される理由は、食肉の安定供給と環境保護が同時に期待できることだ。CNBCによれば、科学者たちは2050年までには世界人口は96億人に達するとしており、都市人口とミドルクラスの増加で、肉の消費は増えると見ている。もともと畜産業は環境への負荷が高く、今後需要を満たすだけの肉を生産することはさらなる環境破壊につながるという。

 しかし、従来の食肉生産がクリーン・ミートへ移行すれば、畜産・食肉業界の温暖化ガス排出は96%、エネルギー消費は45%、土地利用は99%、水消費は96%低下するという研究結果があるとMotley Foolは説明する。クリーン・ミートは、食肉の安定供給を維持しつつ、環境への負荷を軽減できるとし、商業化されれば、現在の工場式畜産場は過去のものとなると述べている。

◆割高が弱点。今後10年が勝負か?
 クリーン・ミートの課題は価格だ。Motley Foolは、2013年に初めてクリーン・ミートを使って作られたハンバーガーの価格は、1個32万5000ドル(約3400万円)と推定している。現在はメンフィス・ミーツ社の場合で、クリーン・ミート1パウンド(約450グラム)当たり、2400ドル(約25万円)に近づきつつあり、劇的に安くなっている。それでもすでに生産に必要な施設や配送手段を確立した従来の食肉に比べると、相当に割高だ。大規模に生産するシステムを確立しない限り、価格は当面高いままだとCNBCは指摘している。一方持続可能な食品供給を目指すGood Food Instituteのブルース・フリードリッチCEOは、数年間は割高が続くものの、今後10年の間に、価格は競争力あるものになるとしている。

 クリーン・ミートは、グルメフードでもチキンナゲットでも、製造コストはあまり変わらないことから、フォアグラなどの高級品で市場に参入しようとする企業もある。また、同じハンバーガーでも、価格の高い高級レストランへの納入を目指すことも考えられているようだ(CNBC)。

◆テクノロジーの普及に期待。意外な懸念も
 CNBCによれば、アメリカとイギリスで行われた調査で、回答者の3分の1がクリーン・ミートを食べてみたいと答えたという。工場で作られる肉と聞けば正直抵抗はある。しかしフリードリッチ氏は、昔は凍った湖から取ってきた氷が、今では台所の冷蔵庫で作られていることを例に上げ、だれも製氷機の氷が人工的だとは感じないだろうと述べ、肉の場合も新しいテクノロジーが普及することを期待している。

 インデペンデント紙は、2018年の終わりにはクリーン・ミートの販売が始まるかもしれないと報じたが、この記事を読んだ進化生物学者で無神論者のリチャード・ドーキンス氏が、「もし人間の肉が培養されたら、我々は人肉食へのタブーを乗り越えることができるのか」というツイートをして物議を醸した(ワシントン・タイムズ紙)。もちろん多くの人々は培養されたものでも人肉食を否定したが、テクノロジーの意外な倫理上の問題点に気づかされたようだ。

Text by 山川 真智子