ウーバー自動運転車の死亡事故、どのように起き、今後の影響は?

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 世界各国の大手自動車メーカーとIT企業が開発競争を繰り広げている自動運転車が、初の死亡事故を起こした。事故を起こしたのはカーシェアリング事業を展開するウーバーがテストしていた車両だったが、車両が正常に機能していれば事故は起こりようのないはずだった。まだ調査中の今回の事故をめぐっては、自動運転車による事故の原因を特定する難しさが浮き彫りとなっている。

◆初の自動運転車による死亡事故
 件の事故はアメリカ・アリゾナ州で起きたのだが、地元のABC15アリゾナが事故をいち早く報じた。記事によると、3月18日の午後10時ごろ、ミル・アベニューのカリー通りの近くで事故は起こった。ウーバーの自動運転車が北に向かってテスト走行中、横断歩道の外側を歩いていた女性をはねたのだった。はねられた女性は49歳のエレーヌ・ハーズバーグさんで、事故後病院に運ばれたが間もなく死亡した。

 事故が起こったアリゾナ州・テンピ市の警察によると、事故を起こした時クルマは自動運転モードになっており、車両にはオペレーターのファフィーラ・バスケ氏がハンドルの後ろに乗っていた、とのこと。また、同氏のほかには同乗者はいなかった。

 自動運転車のテスト走行に関しては、カリフォルニア州が安全上の問題を理由に禁止していたのだが、アリゾナ州は誘致していた。同州のドゥーグ・ドゥーシー知事は、テスト走行誘致について「アリゾナ州はウーバーの自動運転車を諸手をあげて歓迎し、道路を広く開放します」と述べていた。

◆ウーバーの自動運転車の性能と事故当時の挙動
 今回の事故は、なぜ起きたのだろうか。原因を追究するためには、自動運転車がどのようにして周囲の状況を認識し、クルマの挙動を決定するのかを知る必要があるだろう。自動運転車の仕組みについて、テック系ニュースサイト『テック・クランチ』の記事は詳しく解説している。ウーバーの自動運転車の上部には赤外線レーザーを発する探知システムが実装されており、静止物と運動物の両方を検知する。この探知システムは豪雪や濃霧で精度が落ちることがあるものも、探知範囲は数フィート(約1メートル)から数百フィート(約数百メートル)に及ぶ。さらにクルマの前部には、電波を用いたレーダーも実装している。このレーダーは豪雪や濃霧でも対象物を検知するが、赤外線による探知よりは精度が落ちる。このふたつの探知システムが正常に作動していれば、暗いところで黒い服を着たヒトでも探知され、クルマに警告が発せられる、と同記事は説明する。

 それでは事故当時、件の自動運転車はどのような挙動を示したのだろうか。テック系ニュースサイト『The Verge』の記事によると、アリゾナ州警察は事故当時のクルマは時速40マイル(約時速64キロメートル)で走行しており、減速した証拠はなかった、とのこと。さらにフォーチュン誌は、事故の起こったテンペ市の警察長であるシルビア・モイアー氏の発言を報じている。同氏は、ウーバーによって自動運転車に改造されたボルボ製SUVに搭載されていた周囲を撮影する動画を見る限りでは、クルマよりはねられた女性に事故の責任があるように推測される、と話している。

◆事故後の影響
 今回の事故の影響に関して、ビジネス・インサイダーは弁護士のニーマ・ラハーニ氏の見解を伝えている。同氏は、今回の事故は自動運転車を自家用車やカーシェアリング・サービスに導入しようとしていた多数の企業に「大きな後退」をもたらすととらえている。「今回の事故は、自動運転車の実用化を大きく後退させると思われます。なぜなら自動運転車の安全に関する問題は解決されなければならないのですが、まだ完全には明らかになっていないからです」とも述べている。

 またブルームバーグは、テンペ市における自動運転車の導入計画に協力しているアリゾナ州立大学でイノベーションに関して教鞭をとっているタッド・ミラー氏の見解を報じた。同氏は、今回の事故は自動車産業と公共団体の連携を透明にする必要性に光を当てた、とコメントした。「道路の安全性と自動運転車についての諸問題は、インフラや政治が関わる問題、つまりはより広い政策問題として取り組まなければなりません」とも述べている。

Text by 吉本 幸記