米の「ネット中立性」撤廃、何が恐れられているのか? 当局の狙いと懸念点

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 米国連邦通信委員会(FCC)は、アメリカでインターネットの公共性・公平性の原則を保証してきた法律を廃止する方針を発表した。今後はインターネット接続業者の裁量により、利用者の閲覧できるウェブサイトなどが制限される恐れが出てきている。誰もがインターネット上の情報に自由にアクセスできる「ネットワーク中立性」を阻害するものとして、グーグルやフェイスブックなどの大手コンテンツサービス企業は非難の声明を発表した。

◆ネットワーク中立性とは?
「ネットワーク中立性」は、インターネットを公共性の高いインフラとして捉える概念だ。インターネット接続業者(ISP)が接続先のウェブサイト等に応じて、料金や接続速度で差別を行ったり、不当な接続制限を設けたりすべきでないという考え方である。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、現時点でアメリカではオバマ政権時代に導入された法律でネットの中立性が保証されていると説明している。この法律では、接続先のサイトが合法である限り、接続拒否や速度制限などを禁止している。

 どこまで法で規制すべきかについては、常に議論の対象となってきた。ブルームバーグによると、共和党とISPらは、現行の規制は当局に過大な権限を与えていると訴えている。一方で民主党とコンテンツ企業らは、規制撤廃でISPらが自社コンテンツのみを不当に優遇して配信する可能性を危惧し、ネット中立性の危機を指摘している。

◆大改革
 規制撤廃を提案したFCCのパイ委員長は、今回のルール変更でイノベーションが加速すると自信を覗かせる。ニューヨーク・タイムズ紙によると、ISPはより柔軟な料金制度を設定できるようになると氏は主張している。また、大容量の帯域を必要とする既存サービス(動画配信大手のネットフリックスなど)に対抗できるような新たなビジネスモデルの誘発も期待されるという。

 ワシントン・ポスト紙では、本件はトランプ大統領就任以来、最も大規模な規制緩和になる可能性があると指摘する。あるシンクタンク従業員は、オバマ時代のFCCとの方針の完全な相違を象徴する出来事だとコメントしている。新たなルールは早ければ12月14日のFCCの会合で承認される見通しだ。

◆非難の嵐
 ISPらに柔軟性をもたらす規制撤廃案だが、ネットの中立性を脅かすものとして激しい批判に晒されている。FCC関係者からの批判も出ているようだ。あるFCC委員はブルームバーグ(11月22日)に対し、「どの意見を強調し、どのサイトを訪問することができ、どういった人間関係を構築でき、どんなコミュニケーションを行えるか、といった判断の権限をブロードバンドの接続業者らに与えるものだ」と語っている。前FCC委員長も、限られたサイトにしか満足に接続できないようになれば、インターネットがケーブルテレビのような状態に退化すると懸念している。

 民間からも抗議の声が上がっている。ニューヨーク・タイムズ紙では、グーグルやフェイスブックなどのネット大手が猛反発していると報じている。AT&Tやベライゾンなどの接続業者がネットの「門番」になってしまうと訴える。また、今年初めにルール変更が発表されて以来、業界団体「インターネット・アソシエーション」には2000万件のパブリックコメントが寄せられており、多くは規制撤廃への懸念を示す内容だという。

 接続制限の話題は、日本では大容量の利用者への速度制限の観点で語られることが多い。アメリカでは行き過ぎたプロモーションによる特定サイトへの誘導が議論の中心になっているようだ。

Text by 青葉やまと