ネパール大洪水はなぜ起きた 氷河崩落と気候変動を専門家はどう見る
洪水被害を受けたネパール・ヌワコット郡のトリシュリ川沿い|Niranjan Shrestha / AP Photo
8月26日にネパールと中国の国境地帯で大規模な土石流が発生。下流の地域が飲み込まれ、ネパール政府の発表では死者1341人、行方不明者4996人(9月6日現在)に上る大惨事となっている。気候変動との関係が指摘されており、同様の惨事は今後も起こり得ると専門家は警鐘を鳴らしている。
◆過去10~20年で最大級 岩盤と氷河が崩落
今回の土石流は、ネパールの首都カトマンズの北約60キロに位置するランタン国立公園で、山から巨大な岩と氷の塊が崩れ落ち、1200メートル下の谷底へ滑り落ちたことで発生した。時速150キロに迫る速度で泥、水、がれきの激流が渓谷を駆け下り、チベットとネパールの間を流れる複数の川を下って、家屋、道路、橋、発電所を飲み込んだ。悪天候やアクセス困難に加え、土砂崩れ後に形成された2つの湖によるさらなる洪水の恐れもあるなか、現地では救助活動が続いている。(ガーディアン紙)
初期の報告では、この地域の地震が土砂崩れを引き起こし、洪水の原因となった可能性が示唆されていた。しかしその後の衛星分析により、氷河の下にある岩盤が崩壊し、その土砂崩れに伴う揺れがマグニチュード5.2相当の地震動として記録されていたことが判明した。地震学者によれば、この地滑りは、世界的に見て過去10年から20年の間で最大規模のものの一つだという。(ガーディアン紙)
◆専門家が警告してきた災害 気候変動の影響は?
米ABCニュースによれば、この出来事をきっかけに、人間活動によって加速された気候変動が氷河にどのような影響を与えるかについて、一部の専門家による世界的な議論が巻き起こっている。今回の崩落に気候変動がどの程度関与したかを判断するには、さらなる科学的な検証が必要だとしながらも、地滑りは岩盤に浸透した水によって引き起こされた可能性があり、その水は氷河や永久凍土の融解によって生じたものかもしれないという、ペンシルベニア州立大学の氷河学者、リチャード・アレイ氏の意見を紹介している。
CNNも、今回の壊滅的な洪水に気候変動がどのような役割を果たしたかを判断するには時期尚早だとしたが、気温上昇によって山々が急速に変化し、氷河の融解や斜面の不安定化が複雑かつ連鎖的な災害につながっていることは明らかだと述べている。科学者たちは、化石燃料の燃焼によって地球温暖化が進むにつれ、今回のような洪水が頻繁に発生すると以前から予測していた。
◆ヒマラヤの温暖化深刻 責任は誰に?
コペンハーゲン大学地理学のアンダース・アンカー・ビョーク准教授は、一般的に氷河が存在する地域では地滑りが増加していると指摘し、その多くは山腹の永久凍土が融解している地域と重なると述べる。メイン大学の氷河学者、ブレンダ・ホール氏は、同様の災害は氷河が存在する場所ならどこでも起こり得るが、特に起伏の激しい地域や地震の影響を受けやすく、脆弱な岩盤が多い山々では深刻な問題になると説明している。(ABCニュース)
ガーディアン紙によれば、ネパール、インド、中国、ブータン、パキスタンにまたがるヒマラヤ山脈は、世界平均の2倍の速さで温暖化が進み、雪崩、地滑り、洪水のリスクが高まっているという。米タイム誌に寄稿したネパールの国会議員、スムニマ・ウダス氏は、今回の惨事はヒマラヤからの警告だったとし、雄大な山々や氷河が温暖化しているのは、産業革命以来化石燃料を燃やし続けてきた先進国の責任だと主張。ネパールが排出する温室効果ガスは世界全体のわずか0.1%に過ぎず、他国の排出量の代償を支払うために自国が犠牲になっているという考えを示した。同氏は、今こそ国際社会は公約ばかりではなく気候変動対策のための資金を出すべきだとし、ネパールの山々は気候危機の「グラウンド・ゼロ」となっており、同国は気候政策における発言権を持つべきだと訴えている。
科学者も、ヒマラヤの下流地域のコミュニティが直面するリスクを踏まえ、早期警報システムの必要性を指摘し、国際的な監視活動の連携が求められると述べている。気候学者のビル・マクガイア氏はガーディアン紙への寄稿で、温暖化により「地球上のどの地域も無傷ではいられないだろう」と述べ、世界がネパールやチベットでの惨事を受け止めるなか、その教訓を無視すれば重大な代償を払うことになるとしている。




