パリのアズディン・アライア財団では、2026年7月7日から2027年1月4日まで『アズディン・アライアとアフリカ(Azzedine Alaïa et l’Afrique)』展が開催中。アライアのチュニジアのルーツ、アフリカ大陸との結びつきを辿るこの展覧会は、彼のクチュールに込められたノスタルジックなアフリカファッションの世界へと誘う。

1935年、チュニスで生まれたアライア。双子の姉から裁縫を学び、仕立て屋のマダム・リチャードを通じてオートクチュールに出会った。彼女は、チュニジアの富裕層に向けて、パリのオートクチュールの型を用いた服を仕立てていた。アライアはマダムのもとで修行し、そのコネクションを通じて、後にパリのディオールでインターンすることになった。チュニジアを離れ、渡仏したのは1956年、21歳のときだ。ディオールで働いたのはたったの4日間だったが、アライアは以後、フランスでオートクチュールファッションのキャリアを築きあげた。しかし彼は自身のルーツを忘れることはなかった。

会場に入ってまず目に飛び込んでくるのが、真っ白なコットンのドレスとセットアップ。シンプルだが、美しいディテールが特徴的だ。レース風のテキスタイルは、中東や北アフリカのイスラム圏で見られる、木や金属を細かく組んだ伝統的な透かし模様の格子窓「ムシャラビエ」のデザインと共鳴する。眩しさを感じさせるほどの白は、チュニスの建築に見られる石灰壁の白さを想起させる。

一方、メインの展示室で存在感を放つのは、様々なスタイルの黒のドレス。アライアらしい彫刻的なフォルムが美しく、思わず見入ってしまう。触れられないのが残念だが、テキスタイルクラフトのディテールが独自の質感を生み出している。

アフリカ文化において象徴的な意味を持つカウリー貝をモチーフにしたデザインもある。カウリー貝は、お金として使われていた歴史があり、富、権力、魔除けなどのシンボルとして、アフリカ各地の装飾品によく見られる。貝殻そのものでドレスを装飾するのではなく、立体感のあるモチーフとしてテキスタイルに編み込むことで、ボディにフィットするアライアらしいデザインの魅力が引き立つ。

ツノガイ、馬の毛、ラフィアなどの自然素材を加工したテキスタイルやフリンジは、アフリカの伝統的なファッション、そしてコンテンポラリー・ファッションにも見られる要素だ。ボディに沿うように仕立てられたパーツとの組み合わせが、アライア・スタイルの優雅さを生み出している。

北アフリカの民族衣装であるジュラバ(またはジェラバ/djellaba)に着想を得たフード付きのドレスや、サファリをモチーフにしたデザインも。奇抜さではなく、着ることを前提としたカッティングやスタイルがアライアらしい。

ギャラリーの一階では、フランスの雑誌『ELLE』の企画で、アライアが友人のピーター・ビアード(Peter Beard)とともにケニアを旅した際の記録が紹介されている。ビアードはアメリカ人写真家で、ケニアに移住し、野生動物や自然の景観を写真とコラージュで記録した。アライアはこの旅で、ケニア北部で暮らすサンブル族と出会う。アライアに強く印象を残したのは、彼らの衣服や装飾品ではなく、歩き方や立ち振る舞いであった。彼はその動きに、トップモデル、ナオミ・キャンベルやイマンに通ずる優雅さを見出したと語る。アライアは、その動きにインスパイアされ、その場で布をドレーピングし、服を仕立てたそうだ。

パリ・マレ地区にあるアズディン・アライア財団は、生前アライアが自宅、アトリエ、ショー会場として使っていた場所だ。仕事とプライベートを分けずに、様々な友人たちと親交を深めてきたことで知られる彼。空間内にはキッチンがあり、専属シェフが常駐。セレブリティもスタッフも分け隔てなく、大きなダイニングテーブルを囲んでランチをするのが習慣となっていたそうだ。

現在は、ギャラリー、カフェレストラン、ブックストアとして一般に公開されているこの場所は、買い物を楽しむ観光客で賑わうマレ地区にありながらも、静かで落ち着いたオアシスのような空間だ。財団の会長は、ミラノ発のコンセプトショップ「ディエチ・コルソ・コモ(10 CORSO COMO)」創業者兼ディレクターで、元ファッション雑誌の編集者であるカルラ・ソッツァーニ(Carla Sozzani)が務める。彼女はアライアの親友で、メゾン・アライアが財政難に陥った際、プラダ・グループからの投資を斡旋した人物だ。アライア財団の空間では、コルソコモに共通するセンスと居心地のよさを感じることができる。

アライアは流行や春夏と秋冬のシーズンで動くファッションカレンダーにとらわれず、自身のペースで、プライベートな空間でコレクションを発表してきた。アライアの姿勢には、ラグジュアリー・ファッションというグローバルビジネスが失いかけている本物の特別感やタイムレスな価値を見出すことができる。その姿勢は彼の作品のみならず、その空間にも現れていた。


Maki Nakata

Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383