日本のカフェのカワウソ、タイ密猟地とDNA一致 違法取引の疑いを専門家指摘

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 日本では、爬虫(はちゅう)類や珍獣を直接触れ合えるエキゾチックアニマルカフェ(EAC)が増えている。京都大学の調査によると、2019 年時点で営業が確認できたEACは139店舗で、取り扱い動物は合計419種だという。そのなかでも最も人気の動物がコツメカワウソと呼ばれる絶滅危惧種だ。この絶滅危惧種は輸入が禁止されているのだが、なぜ日本のEACにいるのか。それを調査した研究結果によると、密輸多発地域のタイ南部の野生カワウソとDNAが一致するという。

◆動物カフェのカワウソ、タイ南部の密猟多発地域とDNA一致
 東京や京都など都市部の動物カフェにいるコツメカワウソが、密猟のホットスポットであるタイの野生個体群と関連があることが国際的な共同研究で明らかになり、国際学術誌「Conservation Science and Practice」に研究報告書が掲載された。

 コツメカワウソの商業目的の国際取引は、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約:CITES)で禁止されている。しかし、密輸は依然として横行しており、コツメカワウソはカワウソのなかでも人気のある種であり、ペットとしても人気がある。日本は地理的由来が曖昧な飼育カワウソの重要な輸出先のひとつとされているという。

 日本とタイの研究チームは、日本のEACで飼育されている33個体、動物園・水族館で飼育されている43個体、日本の税関で押収された5個体のミトコンドリアDNA配列と、これらのカワウソの主要な取引拠点であるタイ及び隣国の野生カワウソのミトコンドリアDNA配列を比較調査した。

 報告書によると、EACや国内で飼育されている個体で見つかった特定の遺伝子型は、密猟多発地域と疑われるタイ南部の野生カワウソと共通していた。一方、動物園・水族館で飼育されているカワウソの大半がタイで押収された違法取引個体やEACの個体の遺伝子型とは一致しないことが分かった。

 ワシントン条約の記録によると、コツメカワウソは1988年以降、タイから日本に輸入されていないことになっている。しかし、今回の調査結果から、EACで飼育されているカワウソの75%がそれ以降にタイ南部から来たことを示唆している。

 研究チームは、日本で飼育されているカワウソや本来の生息地で飼育されている野生のカワウソのサンプルのデータベースを拡充することで、これらの動物の日本への取引ルートが明らかになる可能性があると報告書をまとめた。

◆過去20年間、日本とタイの空港で100頭以上押収
 コツメカワウソの主な輸入国のなかには日本があり、タイとインドネシアは違法取引されるカワウソの主な供給国となっているとみられている。過去20年間だけでも、タイと日本の空港で100頭を超えるコツメカワウソが押収されている。2018年の調査によると、日本の動物園・水族館の46%が、動物販売業者からカワウソを入手したことを認めた。1986年から2019年の間に、生きたコツメカワウソ382頭がさまざまな目的で日本に輸入されたとの2024年の研究報告もある。

 日本におけるワシントン条約登録種の輸出入は、経済産業省の「外国為替及び外国貿易法」と財務省の「関税法」によって規制されており、2019年8月以前に入手した個体や研究目的のものを除き、飼育下(サンクチュアリなど)で繁殖させた野生のカワウソの輸入は禁止されている。2020年以降、日本では合法・違法を問わず、科学目的の輸入1件を除き、カワウソの輸入は報告されていない。

◆日本のカワウソカフェに懸念
 「日本には我々の想像以上に多くのタイのカワウソがいることが分かりました」と、タイのキングモンクット工科大学トンブリ校の保護生物学者で研究の共著者であるウォラタ・クリンサワット氏は述べた。「カワウソは今や、人々がエキゾチックなペットとして飼いたいと思う哺乳類のトップ3に入っているのです」(モンガベイ誌、5/26)。

 報告書によると、日本におけるカワウソの需要は、動物園や水族館、カワウソカフェまたはEAC、そして個人所有者からのソーシャルメディアのコンテンツがその原動力となっている。カワウソ、主にコツメカワウソは、ユーチューブやインスタグラムで非常に人気がある。2頭のコツメカワウソの日常を紹介する日本の主要な「カワウソ」チャンネルのひとつは、182万人以上のチャンネル登録者と数億回の再生回数を記録している(2024年3月現在)。同チャンネルには「スターカワウソ」にちなんだグッズを扱うオフィシャルショップがあり、オーナーは東京、名古屋、福岡で人気のカワウソカフェも経営しているという。

 また、2021年の研究によると、EACの軒数では世界で日本がトップ。日本のアニマルカフェは2004年に始まり、その数と種類は飛躍的に増加した。2019年時点で、日本では少なくとも137のEACが運営されており、419種が飼育されているとみられる。2024年の調査では、コツメカワウソは、日本のEACで最も人気のある哺乳類の1種であり、2022年7月調査時点で、7都市にある12のEACで展示されている。2019年の調査では、EACのなかにはカワウソを販売しているところもあり、その価格は1個体で1万ドルを超えている。2018年の調査では、日本では少なくとも85頭のカワウソが販売用に広告宣伝され、このうち46%は国内飼育されたもので、20%は輸入されたもの(原産地不明)、残り34%は販売者の報告では出所不明のものだったという。

 コツメカワウソに対する懸念の声は海外でも上がっており、ニュージーランドの『スタッフ誌』は2019年に日本のカワウソカフェの倫理感に疑問を投げかけ、不適切な環境で暮らすカワウソについて報告した記事を掲載している。

◆アニマルカフェの動物のストレス
 決定的な証拠ではないものの、日本とタイの研究者たちは、今回の調査結果は野生取引との関連性を強く示唆するものだと述べている。日本のEACで発見されたカワウソの一部は、2019年に国際取引が禁止される前に捕獲・輸入された個体から、飼育下で繁殖された可能性もある。

 上述のウォラタ氏によれば、EACは規制上のグレーゾーンである。研究チームは、動物カフェのオーナーが通常、動物の出所を記録した詳細な書類を持っていないことを突き止めた。アニマルカフェにカワウソを供給している業者が、カワウソの出所を隠している可能性も示唆した。ウォラタ氏は「血統書にはインドネシアが原産国として記載されていたのですが、調べてみると、タイだったことが判明するケースもありました」と話す。(モンガベイ誌)

 それとは対照的に、動物園で採集されたカワウソのDNAの大半は遺伝的に多様であり、動物園が通常、動物の地理的由来を示す書類を持っていたことも分かったという(同)。

 京都大学野生動物研究センター特定准教授で、この研究の共著者である藤原摩耶子氏はガーディアン紙に「このカワウソが違法取引によって持ち込まれたものであるかどうかは断定できませんが、違法取引のホットスポットであるタイの地域から持ち込まれたカワウソとDNAが同じであることがわかりました」「動物カフェのオーナーの多くはこの状況を理解していません。カワウソを繁殖させて人々に見せることで、カワウソの保護に役立っていると信じている人もいるのです」と話す。

 研究者たちは、動物たちが攻撃的になることもあるので、カフェを訪れたりペットとして飼ったりする前に、よく考えてほしいと呼びかけている。ソーシャルメディアの投稿では、彼らは食べ物を吐いたり、自分の尻尾をかじったりして、しばしばストレスの兆候を示している。(ガーディアン紙)

 藤原氏は「カフェに行くのは良い考えだとは思いません。ほとんどの人は動物が好きだから行くのでしょうが、そのビジネスが違法取引に関与している可能性があることを理解すべきです」と訴える(同)。

Text by 中沢弘子