バナナに迫る危機 中南米の産地60%が消失の恐れ 国際NGOが警鐘
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季節に関係なく一年中食べられている食材といえば、果物のバナナ。安価に購入できて手ごろなバナナだが、将来的には頻繁に食べることができなくなるかもしれない。気候変動による影響でバナナの生産地が危機的な状況に陥っているという調査結果が発表された。
◆バナナの生産地60%が消滅の危機
バナナの優良産地の60%が気温上昇の影響により危機に瀕していることが、新たな報告書で分かった。
イギリスのキリスト教系国際開発支援団体「クリスチャン・エイド」が発表した報告書「ゴーイング・バナナ」によると、異常気象、気温上昇、気候に関連した害虫発生の影響で、バナナの生産地が危機に直面しており、2080年までに南米とカリブ海地域のバナナ生産地の60%が消失する可能性があると指摘した。これらの地域は世界中のスーパーマーケットに供給されるバナナの輸出の80%を担っている。
バナナは15~35度の気温が生育に必要で、水不足に非常に弱い。暴風雨は作物の光合成をより困難にし、気温の上昇は真菌の感染も発生させる。南米では「TR4」と呼ばれる強いカビがバナナの根を侵し、農園全体が枯れてしまう深刻な被害が実際に起きている。
◆単一品種に依存 感染リスク大
国際的なバナナ取引は単一の品種、キャベンディッシュに依存している。毎年約5000万トンのキャベンディッシュ・バナナが生産されており、これは世界のバナナ生産量の約半分にあたる。このうち2000万トンが国際的に取引されており、ヨーロッパとアメリカが最大の輸入国で、大半をラテンアメリカから調達している。世界の貿易額は約110億ドル(約1.6兆円)で、ほかの輸出果物を上回っており、特定の生産国にとって重要な収入源となっている。コロンビアでは、バナナ産業は農業国内総生産の約5%を占め、30万人近くの労働者を直接・間接的に雇用している。
クリスチャン・エイドは、より豊かで汚染の原因となっている国々に対し、温室効果ガス排出量を緊急に削減するよう呼びかけると同時に、消費者に対しても、バナナ農家により多くの金額が支払われるフェアトレードを選ぶよう促している。
同団体の政策キャンペーン部長のオサイ・オジゴ氏は、「バナナは世界で最も愛されている果物であるだけでなく、何百万人もの人々にとって必要不可欠な食料だ。我々は、気候変動がこの重要な作物を壊滅させるリスクに気づかなければならない」と訴えた。
バナナの公正取引を推進する国際団体「バナナ・リンク」のプロジェクト・コーディネーター、ホリー・ウッドワード・デイヴィー氏は「熱によるストレスのために、バナナは病気や感染症にかかりやすくなる。抜本的な対策を講じなければ、根を攻撃する真菌感染症「フザリウム・トロピカル・レース4」によってキャベンディッシュ・バナナは壊滅的な打撃を受け、農場や農園が完全に消失する危険性がある。この感染症は現在、ヨーロッパのスーパーマーケットの主要なバナナ供給国であるコロンビアやペルーなどで確認されている」と危機感を述べた。
◆生産リスクの少ない国も
一方、「ネイチャー・フード」誌に掲載されたイギリス・エクセター大学の研究でも、気候変動による気温上昇のため、ラテンアメリカとカリブ海地域の多くの地域で輸出用バナナの栽培を続けることは、2080年までに経済的に持続不可能になると結論を出した。
研究によると、気候変動が極端な気温の上昇をもたらし、多くの重要な輸出国において適した栽培地と収量を著しく減少させ、農業労働者をより酷暑によるストレスのリスクにさらし、健康と生産性に悪影響を及ぼす可能性を示唆した。
コロンビアやコスタリカのような国々は、栽培には適さなくなると予想され、最も悪影響を受けるとした。わずか半世紀余りで、現在バナナを生産している地域の60%が、気候変動に緊急に対処しない限り、バナナの栽培に苦戦することになるとした。
一方、エクアドルとブラジルの一部の地域は、気候変動がそれほど深刻でないと予測されており、重要な生産国として残る数少ない地域のひとつになるとした。
特にブラジルでは近年、灌漑(かんがい)設備の整備された農地面積が大幅に増加しており、灌漑への投資によって栽培地が大幅に拡大する可能性がある。降水量の強い影響がないのは、灌漑の存在によるところもあるため、灌漑用水の供給を将来的に維持することが、干ばつに強いバナナ品種の育種とともに持続可能性の鍵となるとした。
また、労働力の確保やインフラといった社会経済的要因が、気候変動に適応し生産に適した場所へ移転することを大きく阻害していることも分かったという。バナナ生産の多くが人口密集地や港の近くで行われていることから、より適した地域への移転を難しいものにしているとした。
エクセター大学生物科学部のダン・ベバー教授は「今回の調査結果は、気候変動が単なる環境問題ではなく、世界の食料安全保障と生活を脅かす直接的な脅威であることを明確に表している。灌漑や耐暑性バナナ品種改良に対する多額の投資を行わなければ、輸出用バナナの生産は将来的に不透明なものといえる」と述べた。