10億匹の飼い犬…見過ごされる環境への悪影響 研究で明らかに
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最近学術誌に発表された論文が、飼い犬が環境に与える影響は「一般的な認識よりもはるかに大きい」と指摘している。数千年前から人間の友として愛されてきたイヌだが、野生動物の活動妨害や環境汚染のもとになっているとされ、対策が求められている。
◆数でネコを圧倒 飼い犬が環境を破壊?
学術系ニュースサイト『カンバセーション』によれば、世界には推定10億匹の飼い犬がいる(飼い猫は約2億2千万匹)。イヌは世界で最も一般的な大型捕食動物とされ、ペット、介助犬、あるいは労働犬として、その多くが人間と生活を共にしている。
飼い猫も野良猫も、生態系への悪影響は広く研究されている一方、飼い犬についてはあまり研究されていないという。そんななか、既存研究のレビューとして学術誌「パシフィック・カンバセーション・バイオロジー」に掲載された論文において、イヌが重大かつ多面的な環境への脅威をもたらすことが明らかになった。
◆野生動物の敵 環境負荷も多大
飼い犬が環境に与える影響としてまずあげられているのが、野生動物への被害だ。イヌは家畜化しておとなしく、人間の指示をよく聞くが、捕食動物であることに変わりはない。オーストラリアやニュージーランドでは、野生動物が飼い犬によって襲われたり殺されたりしており、コガタペンギンのコロニー崩壊の主な原因になっているという。イヌはひとたび放し飼いにされると動物を追いかけることも多く、野生動物たちの脅威となっている。
飼い犬の糞尿(ふんにょう)は人獣共通感染症を野生動物に移し、蓄積されれば水路を汚染し、植物の生育に影響を与える可能性もある。平均的なイヌは1日200グラムの糞と400ミリリットルの尿をするとされ、寿命を13年とすれば、生涯で1トンの糞便と2000リットルの尿の排泄物を出すことになる。
さらに飼い犬が水路に入り込めば、投与された寄生虫駆除用の化学薬品が皮膚や毛から放出され、有毒物質による汚染につながる可能性もあると指摘している。
飼い犬の数の多さは、ペットフード産業を通じ、地球規模の二酸化炭素排出に貢献しているという。ガーディアン紙によれば、2020年の調査で、ドライペットフード産業の温室効果ガス排出量は、排出量の多い国の60番目に相当するという。また、土地や淡水の利用でも環境に負荷をかけていると研究は指摘している。
◆もはや無視できない 飼い主の責任も…
この研究論文の主執筆者であるカーティン大学のビル・べイトマン准教授は、多くの飼い主はイヌが環境に与えるダメージを認識していないと指摘。飼い犬は人々の生活にとって非常に重要だが、世界的なペット犬の多さと、一部の飼い主のいい加減な行動が相まって、もはや無視できない環境問題を引き起こしていると述べている。
同氏は、影響を受けやすい場所へのイヌの立ち入り制限だけでは完全な解決策にはならないとし、飼い主、自然保護団体、政策立案者が協力した、ペットの所有と環境への配慮を両立する戦略を策定するよう求めるとしている。