EU義務化の新キャップが使いづらい…不満の声多数 ペットボトルから引きちぎる人も

 欧州連合(EU)では今年7月初めから3リットル以下の飲料を対象に、ペットボトルや紙パックのプラスチック製キャップを一体化して販売することが義務付けられている。キャップを回して開け、いざ飲もうとしたりコップに注ごうとしても、キャップはボトルにくっついたままだ。EUに進出している日本の飲料メーカーもこの規制に早くから対応しており、5月からは日本産の緑茶も新パッケージで販売している。

 ネットでは、新しいペットボトル入り飲料を飲んだ人たちから「キャップが鼻や頬に触れて、飲みづらい」という声が挙がっている。

◆欧州のペットボトル回収率は60%
 新ルールが導入されたのは、プラスチック製のキャップのリサイクルを改善・促進するため。日本では通常、ペットボトルはキャップを外して資源ごみやリサイクル回収所に出し、キャップの回収事業も進んでいる。一方、ヨーロッパでは筆者が把握している限り、キャップをつけたままリサイクルボックスに入れることが推奨されている(テトラパックなどの紙パックも、ヨーロッパではキャップは分別しないで出す)。

 2022年のヨーロッパ全体のペットボトル回収率は60%だった。ただし、地域差が激しく、30%台の国もあれば、ドイツやスイスなどのドイツ語圏で90%以上、北欧諸国で87%と高い国々もある。キャップ回収率は不明だが、キャップをつけずにボトルだけをリサイクルに出すこともあるため、キャップ回収率も60%とは言えないだろう。

 なお、同年の日本のペットボトル回収率は94.4%と非常に高い。

◆非EUのスイスでは、新旧キャップが混在
 非EU加盟国のイギリスやスイスでは、EUに輸出するメーカーは新ルールに対応する必要があるが、国内向けのボトルは旧キャップのままでも良いことになっている。筆者の住むスイスでは11月の時点で、新キャップのついたEUからの輸入品、新キャップに切り替えた国産品、旧キャップの国産品が店頭に並んでいる。

 スイスの国民的飲料といわれる「リベラ」を製造するリベラ社は、消費者が新しいキャップにかなり批判的なこと、スイスではキャップはあまりポイ捨てされず、工場でキャップが分離され、キャップもきちんとリサイクルされていることを理由に新キャップに消極的だ(20ミヌーテン)。また、スイスのすべてのメーカーが国内向けに新キャップに切り替えないのは、コストも関係しているだろう。

◆9割以上が「旧キャップのほうがいい」
 筆者もペットボトルと紙パックの新キャップタイプを試してみたが、どちらも使いにくいと感じた。筆者の家族や友人も使いづらいと言っている。新ルールが導入された頃に行われたスイスの20ミヌーテンのオンラインアンケートでは新キャップは使いづらいという意見が大多数だった(回答者1万6千人以上)。

 回答の内訳は、「旧キャップがいい」が6割、「新キャップは嫌だけど環境のためには仕方ない」が1割、「新しいキャップを引っ張って旧キャップのように飲み口から取ってしまう」が2割で旧キャップ支持派が9割となり、「旧キャップより新キャップがいい」と回答したのは1割に満たなかった。

◆新ルールは環境負荷増を招く?
 専門家のなかには新ルールを疑問視する人もいる。資源保護コンサルタントのフィリップ・ヘルト氏は、「非常に使いづらい」点と、新キャップは旧キャップよりも若干材料が増えるため「膨大な新キャップ製造は環境負荷を大きくする」点を指摘する。氏は何度も使えるボトルの使用を義務化するほうが意味はあるだろうと話している。(独紙ディ・ヴェルト

 ケンプテン応用科学大学のマルクス・プレム教授(専門は包装テクノロジー、プラスチック工学)も不賛成で、新ルールは罪の意識を和らげるための活動に過ぎないと独DPA通信に語っている。教授は(ドイツでは)最終的に海や河川、湖にたどり着くキャップの量は極めて少ないとし、プラスチックは複合材料のことが多くリサイクルは難しいが、この新ルールよりもプラスチックのリサイクルをもっと進めることが重要だと強調している。

 飲料のキャップというと、同じように環境保護の観点から、缶の飲み口のタブが切り離す「プルタブ」から、現在の取れない「ステイオンタブ」へと切り替わったことを思い出す。不評のペットボトルや紙パックの新キャップは、人々が使い慣れることで受け入れられていくのか。それとも、簡単に引きちぎれるため取ってしまう行為が定着するのだろうか。

 新キャップにはなったが、ヨーロッパ全体のポイ捨てやごみを分別しないで出すことは改善していく必要があるだろう。

Text by 岩澤 里美