伝統のピザ窯が消える? NY市、飲食店の汚染物質削減が義務化

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◆ピザ店だけ狙い撃ち? 批判続々
 ところが、新ルールは一部の地元民から不評を買っている。排出抑制装置には多額の費用が必要なためだ。ニューヨーク・ポスト紙(NP)によれば、昨年夏にこの規則案が報じられた際には、愛着のある店が廃業に追い込まれるのではないか、伝統のピザの味に影響が出るのではないかという心配の声が寄せられたという。

 この計画が承認されるまでに、DEPは155件のコメントをオンラインで受け取ったが、そのほとんどが反対だったという。「(コロナ禍の)過去3年間、多大な苦難に耐えてきた零細ビジネスに、不合理な負担を強いるもので、行政側の行き過ぎだ」「大気汚染対策を企業に強制するのなら、設備を無料で提供すべき」「ピザを狙い撃ちするのか? 代わりにディーゼル・トラックを狙えないのか」など批判的意見が並んでいた。(NP)

 もっとも、伝統的な焼き方でピザを提供する一部の店では、すでに排出抑制システムを導入したところもある。老舗のピザ屋、ジョンズ・オブ・ブリーカー・ストリートのオーナーは、「やるしかない。ほかの方法では焼けない」とし、設備に10万ドル(約1500万円)を投入した。数千年続いた焼き方を変えたくないという石炭窯を使うユダヤ系のパン屋では、60万ドル(約9000万円)以上をフィルター装置に費やしたという。(NP)

◆本場ナポリでは罰金も 規制で新規参入がより困難に
 BBCによれば、薪で焼くピザが欧州連合(EU)法で商標保護されているイタリアのナポリ郊外でも、大気汚染と戦うとして、2015年にピザ窯の一時的な使用禁止が導入された。排ガスフィルターなしで営業した事業者には、1000ユーロ以上の罰金が科されたという。ニューヨークの規制が環境に与える影響は不明だが、煙の多い窯が公害を増加させ、健康への悪影響を及ぼすという研究結果はあるとしている。

 ブルックリンのピザ店オーナー、ポール・ジアンノーネ氏は、新たに追加されたコストを考えれば、伝統的な焼き方をする新店の開業は難しく、ガス式の店が増えていると話す(NP)。さらに、企業は規制とコストの増加で経営難だと指摘。規制に次ぐ規制がビジネスを難しくしており、人件費と商品のコストが上がるなか、今回の規制が魅力的な薪窯ピザ・レストランに終止符を打つことになるだろうと話している(フォックス・ニュース)。

Text by 山川 真智子