一握りの富裕層が大量のCO2排出 脱炭素に逆行するプライベートジェット問題
◆あまりにも便利 利用者増で業界ホクホク
航空機の利用が気候変動を加速させるという認識が広がるなか、プライベートジェット業界は活況を呈している。航空コンサルタント会社WINGXアドバンスによれば、2021年のビジネスジェットのフライト回数は330万回で、2019年から7%の増加となった(マーケット・プレイス)。豪華でセキュリティが高いことに加え、大勢と接することがない、飛行場についてすぐ歩いて飛行機に乗り込める、入国や通関がスムーズなどが魅力だと航空サイト、シンプリー・フライングは人気の理由を説明している。
航空部門は炭素排出量全体の2.4%を占めているが、ある研究では、この数字の半分以上が、最も頻繁に飛行機を利用するわずか1%ほどの人たちによるものだろうとされている。別の研究では、20人の富裕層が乗り物による移動だけで、2018年に合計5万5000トンの二酸化炭素を排出していたことがわかった。多くの富裕層が環境を保護する活動をし、気候変動を食い止めるため寄付や排出権購入を行っているが、こういった行動のどれも実際の排出量を相殺するに至っていないと研究者たちは結論づけている。(マーケット・プレイス)
ニュージャージー工科大学のモーリー・コーエン教授は、プライベートジェットは一般の搭乗客が利用する空港施設を利用しない場合が多く、目につきにくいと指摘。しかしここ数十年で普通の人々が思う以上に、個人用の航空機利用は一般的になっていると述べる。プライベートジェットビジネスにはさまざまな形態があり、自家用機を所有しなくても航空機の株式や一定回数乗れるバウチャーを購入することで利用でき、利用そのものが減速する兆しはないとしている。(同)
◆一握りの利用者のために全体が犠牲に 仏閣僚怒る
プライベートジェットの利用の増加に、フランスのブーム交通担当相は欧州レベルのさらなる規制が必要だという考えを示した。日常生活でフランス人が省エネと気候変動対策のために犠牲を払うことを求められているいま、以前のように利用を容認することはできないと地元紙に語っている。全面禁止はできないが、課税の強化、鉄道利用が容易な場所へのフライト禁止などの措置が考えられるとし、10月のEU運輸相会合でさらなる行動を促す予定だとした。(アクシオス)
一方シンプリー・フライングによれば、今年カタールで開かれるサッカーのワールドカップに向け、プライベートジェットのチャーターに関する現地の運営会社への問い合わせが急増しているという。ほとんどの人には手の届かないほど高額だが、欧州からの利用は増えると思われる。近年異常気象による災害増加で人々の気候変動への意識は高まっているが、利便性には勝てないのが現実かもしれない。
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