気候変動によって58%の感染症が悪化 米大が7万件以上の研究を精査

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◆病原体断然有利? 人の対処能力は低下
 研究では、ほかの重要な調査結果も示されている。まず、気候変動が媒介動物や病原体の空間的・時間的な拡大を促進し、病原体を人間に近づけているとした。たとえば、温暖化と降水量の変化は、感染症発生に関与する、蚊、ノミ、鳥、一部の哺乳類の生息範囲の拡大に関連しているという。同時に気候変動は人間を病原体に近づけており、人間が強制的に移住や移動を余儀なくされた結果、病原体との接触が増えている。

 さらに、病原体の特定の側面が気候変動で強化されており、繁殖に適した気候への適応、ライフサイクルの加速、暴露しやすい季節や期間の増加、潜伏期間短縮などによる媒介作用の高まり、病原性の増加などが見られるとされる。一方、気候変動により人間の病原体への対処能力は低下している。体調の変化、危険にさらされることによるストレス、インフラの損傷による病原体への暴露や医療へのアクセスの減少などがその要因とされている。

◆科学者の見方は? WHOも懸念
 研究の筆頭著者である社会科学部の地理学教授カミロ・モラ氏は、新型コロナのパンデミックが大規模かつ広範囲に及んだことを考えれば、温室効果ガス排出の結果として生じる大規模な衛生上の脆弱性を発見したことは恐ろしいことだとコメント。人が気候変動に適応できると考えるには、あまりにも病気や感染経路が多すぎるとした。(ハワイ大学)

 この研究に参加していないエモリー大学の感染症専門家のカルロス・デル・リオ博士は、感染症や微生物学の関係者は、気候変動を優先事項の一つにする必要があり、大惨事を防ぐため皆で協力する必要があると述べている(AP)。

 ワシントン大学の気候・公衆衛生の専門家のクリスティ・エビ氏は、化石燃料の燃焼が頻繁かつ激しい異常気象を引き起こしていることは既成事実であり、気象パターンが多くの健康問題に関連していることはこれまでも研究で示されているとした。しかし今回の研究の結論の導き方や研究の手法の一部に懸念があるとし、相関関係は因果関係ではないと注意を促している。(同)

 世界保健機関(WHO)は、気候変動による危機によって、開発、グローバルヘルス、貧困削減における過去50年の進歩が元に戻ってしまう恐れがあると警告。マラリアや下痢などの急増や栄養失調、暑さによるストレスにより2030年から2050年までに毎年25万人が追加的に死亡すると推定している。(ガーディアン紙

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Text by 山川 真智子