グーグルのスマートシティ撤回のトロント、人と自然の「グリーンシティ」へ 波止場地帯開発

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 カナダ・トロントの水辺地区開発を手がける行政機関であるウォーターフロント・トロント(Waterfront Toronto)は、今年初めに波止場地帯(Quayside:キーサイド)の開発における新たな計画を発表した。以前発表し、批判を受けたスマートシティの構想とは異なる今回の計画は、より人間と自然に寄り添ったものになっている。その詳細とは。

◆撤回されたスマートシティ構想
 2017年、ウォーターフロント・トロントはキーサイドの提案依頼書を発行。グーグルの子会社で、都市開発とテクノロジーを掛け合わせた領域における課題解決・サービス提案などを行うサイドウォーク・ラボが落札し、2019年6月にマスター・イノヴェーション開発計画(Master Innovation Development Plan:MIDP)がリリースされた。同社のサイトによると、計画は18ヶ月間に及ぶ民間からのヒアリングを基にしたもので、2万1000人のトロント市民との直接的な対話が行われたと説明されている。たとえば、2018年の夏にはサイドウォーク・ラボのトロント事務所が開設され、実験的なオフィススペース307が一般に解放された。この空間ではプロジェクトに関する説明や関係企業とのイベントなどが展開されていた。

 MIDPは、4万4000人の雇用創出と年間142億ドルの経済効果をもたらすとされていた。計画には、手頃な価格での住宅供給やより環境にやさしいエネルギー・インフラの構築、新たな交通インフラの整備といった要素が盛り込まれており、アーバン・データの活用といったデジタル・イノベーションが、この開発構想の主軸の一つであった。アーバン・データとは都市のあらゆる公共空間(場合によっては私有施設含む)に関する情報の集合体を指す。MIDPの全体構想は、4冊の冊子にまとめられているのだが、その序章の1冊だけでデジタル・イノベーションというキーワードは23回登場する。具体的にはユビキタスなインターネット環境や、アーバンデータの収集を円滑に行うための標準化・効率化された機器の導入などが提案されている。そしてこのデジタル・イノベーションのカタリストとなるのがサイドウォーク・ラボであり、グーグルだ。序章の1冊にはグーグルという単語が30回登場するが、グーグルの新しいトロント本社が地域の経済開発のデジタル・イノベーションの中心となるというビジョンが展開されている。

 MIDPでは、アーバンデータの収集に関する透明性の確保や、プライバシー保護に関する法令遵守に関する計画が描かれているものの、グーグルというビッグ・テックが都市開発と市民のデータ収集に大きな影響力を持つことに関しては、批判と懸念の声が高まった。ビッグ・テックの事業モデルに対する、世論の懸念や不信の高まりという背景は、このスマートシティ構想に対する懐疑的な声をより拡大させたようだ。ガーディアンの記事では、米国のVC投資家ロジャー・マクナミー(Roger McNamee)は、このトロントのスマートシティ構想は、監視資本主義(surveillance capitalism)だとし、市議会に抗議の書面を送ったと報じている。サイドウォーク・ラボの計画は、2020年5月に撤回された。「新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした過去に類を見ない経済の先行き不安定」が撤回の理由であるとのことだ。

Text by MAKI NAKATA