欧州、石炭火力に回帰 ロシアの天然ガスに頼れず、脱炭素遠のく

ドイツ西部ゲルゼンキルヒェンの石炭火力発電所(2021年)|Martin Meissner / AP Photo

◆石炭回帰続々 各国ガス備蓄に奔走
 ロシアからのガス供給の削減は、イタリア、オーストリア、スロバキアからも報告されている。ガスの供給がいつ通常レベルに戻るかはまだわかっておらず、欧州連合(EU)への完全な供給停止の恐れも高まっている。ドイツ同様、欧州の政策担当者は冬になる前に天然ガスの貯蔵量を増やすために奔走しているという。

 2020年に石炭からガスへの転換を終えたオーストリアは、緊急時にのみ使用するとしつつも、既存の発電所に再び石炭を使用するための設備を整えると発表した。オランダでは、石炭火力発電所の稼働率を最大で35%としていたが、当局が発電量の上限を解除した。(WP)

 イタリアを含むほかのEU諸国も、石炭火力発電所を再稼働させると予想されている。EU諸国はエネルギー不足による経済的圧迫を受けており、欧州のガス価格は高騰。パンデミック前と比べ少なくとも6倍高くなったとされている。(フィナンシャル・タイムズ紙、以下FT)

◆脱炭素の道遠のく? 石炭利用増を懸念
 たとえ一時的であったとしても、石炭使用の増加は、欧州のエネルギー転換を遅らせるのではないかという疑念を呼び起こしたとFTは述べる。各国の石炭回帰の動きを受けて、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長はEU加盟国に対し、化石燃料の使用を削減する長期的な取り組みを後退させないよう求めた。

 アメリカを拠点とする環境擁護団体、環境防衛基金のマット・ワトソン氏は、今冬は仕方がないとしても、来年も同じ石炭利用の状況となるのなら、政策立案者とエネルギー産業にとって大きな失敗になると指摘する。アメリカの気候変動特使ジョン・F・ケリー氏も、各国がウクライナでの戦争のために石炭への依存度を高めれば「我々はおしまいだ」と述べた。(WP)

 EUはガスの供給源を多様化して再エネ能力の拡大を急ぎたいと考えており、フォン・デア・ライエン氏はEUが将来「正しい選択をした」と言えるよう可能な限りのことをしていると述べた(FT)。一方ワトソン氏はガス供給のギャップを埋めるため、石油やガスの生産者に無駄なフレアリング(生産時に発生する余剰ガスの焼却処分)やメタンガスの漏出を減らし、市場に供給するガスを増やすことを提案している(CNBC)。冬を前にエネルギー確保の決定的解決策はなく、各国で綱渡りが続きそうだ。

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Text by 山川 真智子