国際目標「気温上昇2度以内」は達成可能、各国が公約実現なら 研究

Martin Meissner / AP Photo

 気候変動との戦いに関する公約を世界各国がすべて実行した場合、温暖化抑制のために国際合意された二つの目標のうち、一つは達成可能だ。しかしながら、科学者らが地球環境をより良く守るために望ましいと主張しているもう一つの数値目標に関しては、その達成は絶望的だ。このたび新たな研究によって、そのような結論が導き出された。

 4月13日にネイチャー誌に掲載された新しい研究によると、世界の気温は、過去には達成不可能とみなされていた達成目標である「産業革命期以前との比較において、摂氏2度高い気温」をわずかに下回る水準で今後推移する可能性もゼロではないようだ。

 本研究によると、このシナリオが実現するための条件としては、世界各国が公約した炭素排出量削減の国家目標を各国が2030年までに達成し、なおかつ、それよりさらに困難な達成目標である「2050年までに実質的な炭素排出量ゼロを達成」という公約も実現させることが不可欠だ。

 それでは、ここで語られている「気温が2度高い世界」とは実際どのようなものだろう?そこではいまよりも激しい暴風雨が吹き荒れ、海水面は高く、各種の動植物は絶滅し、珊瑚礁は消失し、極地の氷も融解。熱波やスモッグ、感染症で死亡する人口もさらに増加。一言で言えば、科学者らが「深刻なレベルの破局的な気候」と表現する地球環境そのものだ。

 これは、世界の指導者らが切に希望している「産業革命以前の時期と比べて、摂氏1.5度の気温上昇」という未来目標からはほど遠い。本研究の著者らによると、今後の10年間で、さらに言えば今後3年以内に新たに抜本的な炭素排出削減の国際合意が結ばれ、それが実施に移されない限り、より好ましい推奨目標値である「1.5度」をはるかに上回る水準で温暖化が進行するとの見通しだ。

 ここで話題になっている「1.5度」と「2度」という数値目標は、気候変動に関する2015年のパリ協定、ならびに2021年のグラスゴー気候合意のなかに盛り込まれたものだ。このうち「2度」の目標については、それより何年も前の時点から提唱されてきた。

 本研究のリードオーサーを務めたメルボルン大学の気候科学研究者、マルテ・マインシャウゼン氏は「史上初めて、象徴的な国際合意である『2度以下』の範囲内に、温暖化を抑えられる可能性が出てきました。ただしその前提として、世界各国がそれぞれの公約を忠実に守ることが求められます」と話す。

 もし仮にこれが、気候科学の専門家や本研究の著者ら以外の口から出た言葉なら、これはいささか過言に聞こえるかもしれない。しかし今回の研究結果が示唆するのは、世界各国の政治指導者たちはここまでのところ、国際公約を実際に遵守してきたということだ。

 ドイツのニュー・クライメート・インスティテュート(New Climate Institute)に所属する科学者のニクラス・ヘーネ氏は、今回の研究には加わっていない。ヘーネ氏は「気候アクショントラッカー(Climate Action Tracker)」という団体向けに各国の公約を分析した上で、「この研究は特定の楽観的なシナリオのみを検証しており、各国政府が長期目標達成に向けた取り組みを実施しているかどうか、またそれらの取り組みはどの程度信頼に値するのかを検証していません。現実としては、各国政府がそれぞれの長期目標を着実に実施しているとは言い難い状況です」と述べている。

 ヘーネ氏の研究チーム、ならびに国際公約の実施状況をトラッキングしているそのほかの人々も、マインシャウゼン氏の研究チームと同様に「現時点ではまだ、温暖化を2度以下に抑えられる可能性は消えていない」との結論にいたっている。しかしそのなかではマインシャウゼン氏の研究がいちはやく科学誌の査読を受け、このたび最初に雑誌掲載された。

 言うまでもなく、気温上昇幅を2度以下に抑える国際目標を実現するためには、世界各国が公約通りに政策を実施することが不可欠だ。しかしながらマインシャウゼン氏によれば、風力発電と太陽光発電のコスト低減により、当初の想定よりも早い段階で炭素排出削減を達成できる可能性があり、一部の国々では、公約した以上の削減が実現しうるという。同氏はまた、気候変動との戦いはまずは公約、次に政策実施という順序を踏むものであり、各国の公約を真剣に受け止めることはとくに不合理ではないとしている。

 マインシャウゼン氏は「『気温上昇幅を2度に近づける数値目標? そんなもの、今後は議論する価値もない』と誰もが嘲笑していた5年前や10年前の状況に比べると、大きな改善が見られること。このことが何より重要です。数値目標を設定し、それに基づく政策を実施することで、実際に未来の気温は変えられるのです。世界各国が、この明るい見通しに目を向けることが重要です。ええ、間違いなく希望はあります」と語る。

 それでは、その「希望」を生み出した要因は何だろうか? 同氏によれば、そのうち約20~30%はパリ協定の成果であり、残りの部分は各国がこれまで行った投資によって、地球温暖化を加速させる石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料よりもグリーンエネルギー技術のコストが低くなったことが大きい。
 
 もちろんこのこと自体は良いニュースだ。ただし、良い話ばかりでもないのだという。マインシャウゼン氏は「気温の上昇幅を、ぎりぎり2度以下に抑えていくための、許容誤差の幅が非常に小さいのです。また、各国の公約をすべて実施しても、温度上昇幅を1.5度以下に抑えられる見込みはありません」と警告する。

 2018年、国連の科学専門家チームによって、気温上昇幅「1.5度」と「2度」とでいかなる違いがもたらされるかの研究が行われた。その結果、2度の上昇幅では地球環境にきわめて深刻かつ広範囲にわたる被害がもたらされることが判明した。そのため最近では、国際社会としては「気温上昇1.5度」の数値目標の実現を模索している状況だ。

 すでにここまで地球は、産業革命以前の時期(具体的には1800年代後期を基準にすることが多い)と比べて、少なくとも摂氏1.1度の温暖化を記録している。つまり「その当時と比べて2度の温度上昇」とは、現在の気温を基準にした場合、ここから0.9度の気温上昇ということになる。

 グローバル・カーボン・プロジェクト(Global Carbon Project)と共同で炭素排出量のトラッキングを行っている気候科学者のグレン・ピーターズ氏は「たしかにマインシャウゼン氏の分析は一見すると信頼性があり、堅実なものに見えます。ただし、その分析の前提となっている仮定部分が問題です」と指摘する。

 ノルウェーのオスロ国際気候研究センター(Cicero:International Climate Research in Oslo)で研究主任を務めるピーターズ氏によると、今回の研究が用いている最も重要な仮定として「世界各国が、実質的な炭素排出ゼロ実現の公約を何とか達成」というものがある。その目標時期はおおむね「2050年まで」、そのうち中国とインドに関しては、そこからさらに10年後・20年後に達成するものとしている。

 同氏は「『2050年までに』と公約するだけなら簡単です。しかし、世界のほとんどの国々において、いまから2050年までの間に、5回か6回の選挙が行われるわけです。そのすべての期間を通して、目標達成のために必要となる短期政策を継続実施していくことは、決して簡単ではありません」と述べ、その実現性に疑問を投げかけている。

BY SETH BORENSTEIN AP Science Writer
Translated by Conyac

Text by AP