公共交通の無料化は本当にエコなのか? 欧州の事例から学ぶ
◆エストニアのタリンの成功例
こうした公共交通機関無料化の試みは、これまでも、エストニアの首都タリン市、ベルギーのハッセルト市、フランスのダンケルク市などあちこちで行われてきた。2013年1月から全市民43万5000人を対象にバス、トロリーバス、トラム利用を無料としたタリン市は成功例の最たるものだ。これにより、渋滞が減り、空気が良くなり、町中にスペースが生まれ、交通費が無料になることで生まれた経済的余裕を市民が娯楽などの消費に回すという好循環が生まれたからだ。(スマートシティーズ、2020/3/20)
財政面でも好循環が働いた。無料化の年間費用は1200万ユーロ(約15.5億円)と、市の当時の予算5300万ユーロ(約68億円)の2割以上を占めるものだったが、タリン市の評判が上がったため転入者が大幅に増え、市の税収入は増加し、かえって懐が潤う結果となった(同)。
◆乗用車は減らず、自転車が減った
一方、1996年から全市民を対象に無料化を図ったベルギーのハッセルト市では、公共交通機関利用者が10倍に増えるという反響をもたらしたものの、費用の重圧に耐えかねて、2014年には対象を一部市民のみに縮小している(同)。
2018年に市民のバス利用無料化に踏み切ったフランスのダンケルク市では、2年でバス利用数は約77%の伸びを見せ、移動手段にバスを選ぶ人はそれまでの5%から9%に増加した。だが、乗用車からバス利用に転じた人はそれほど多くない。というのも、無料バスにひかれたのは、むしろ、それまで自転車や徒歩移動を行っていた人だったからだ。(テクニシテ、2020/6/22)
同様の傾向は、上述のハッセルト市でも見られた。無料化を機会に新規にバス利用を始めた人の半数以上は、それまで徒歩あるいは自転車で移動していた人たちだったのだ。15年もの無料期間を経たのちも、同市在住世帯の90%は乗用車を所有しており、自宅と職場間の移動の75%は乗用車によるもので、バス利用は5%を占めるにすぎない。(スマートシティーズ)
これらの事実を踏まえ、専門家の多くは、乗用車の数を減らす目的だけで公共交通機関を無料化するのは意味がないと考えている。