注目される環境再生型農業 各業界のブランドも取り組み
気候変動に影響を与える主要な人間活動の一つが農業である。大規模な商業的農業には、大量の水と土地が必要であり、全有機農場でない限り農薬も不可欠である。USDAによると、米国では農業により2018年だけで6億9800万メートルトンの二酸化炭素を排出した。そこで科学者たちは現在、地球の二酸化炭素を減らし、地球温暖化の抑制に役立つことを望み、環境再生型農業(リジェネラティブ農業)と呼ばれる、いまよりはるかにクリーンな農業技術に注目している。環境再生型農業とは、農地の土壌をただ健康的に保つのではなく、修復・改善しながら自然環境の回復に繋げることを目指す農業を指す。
◆なぜ環境再生型農業なのか
土壌学者によると、現在の土壌破壊率で脱炭素化、侵食、砂漠化、化学汚染などが進めば、50年以内に、栄養の減少とミネラルの喪失を特徴とする、食糧供給の質的な劣化によって公衆衛生に深刻な影響が出るだけでなく、地球の全人口を養うのに十分な耕作可能な表土がなくなるという。40億エーカーの耕作農地、80億エーカーの牧草地、100億エーカーの森林地帯の土壌を保護または再生しなければ、食料供給や地球温暖化を2度以下に維持すること、また生物多様性の損失を食い止めることは不可能とされる。(国際NPO リジェネレーション・インターナショナル)
環境再生型農業の利点は多くあるが、大きくまとめると4つある。1つ目が、土壌の生成・構築および土壌の肥沃度と健康に貢献すること。2つ目が、水の浸透、保水、および清潔で安全な水の増加。3つ目が、生物が多様化し、生態系の健康と回復力を高めること。そして最後に、現在の農業から排出される炭素を隔離し、大気中の二酸化炭素を減らすことである。環境再生型農業は、土壌有機物を再構築し、劣化した土壌の生物多様性を回復することによって気候変動を逆転させ、炭素の排出と水循環の改善の両方をもたらす農業と放牧の手法である。(リジェネレーション・インターナショナル「環境再生型農業とは」)
日本では「奇跡のリンゴ」で有名になった、自然栽培農家である木村秋則氏が一例である。木村氏は絶対不可能といわれていた農薬・肥料を使わない、完全無農薬無肥料のリンゴ栽培を可能にした。何年もかけて土を耕し、農薬散布をやめ虫を生かし、10年以上の歳月をかけて自然栽培農法を開発した。土が生き返ることで食物が美味しくなり、そこを取り巻く生態系や人間の健康も向上、そして気候変動も食い止める効果がある。これこそ、環境再生型農業である。
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