強力になるハリケーン、海水温上昇と関係 勢力衰えず内陸でも被害

Alexander Gerst / ESA/NASA via AP

 最新の調査によると、ハリケーンは上陸してからも長く勢力を保ち、それにより内陸部での被害が拡大しているという。

 この現象をもたらしているのは、気候変動による海面水温の上昇だとみられている。水温上昇によりハリケーンは水分を蓄え、それが燃料タンクのような働きをする可能性のあることが調査で判明した。ハリケーン「エタ」がフロリダと湾岸地域で数日にわたって被害をもたらしたこともあり、以前よりも海岸から離れた地域での被害が深刻化していると研究者は警鐘を鳴らしている。

 同研究では、1967年以降にアメリカに上陸した71個の大西洋ハリケーンを分析した。それによると、1960年代のハリケーンは上陸後17時間以内に風力が3分の2に減衰した。11月11日にネイチャー誌に掲載された調査結果では、現在のハリケーンがその水準まで減衰するのに通常33時間かかるという。

 沖縄科学技術大学院大学で流体力学を専門としているピナキ・チャクラボルティ教授は、「時間が著しく増えている」とした上で、「ハリケーンの減衰が遅くなっている」と述べている。

 チャクラボルティ氏によると、2018年に240億ドル(約2.5兆円)の被害をもたらしたハリケーン「フローレンス」はノースカロライナ州ライツビル・ビーチ付近に上陸した後、勢力が当初の3分の2近くまで弱まるのに約50時間もかかった。2016年のハリケーン「ハーマイン」の場合、フロリダ州アパラチー湾に上陸後、その勢力が減衰するのに3日以上もかかった。

 人間がもたらした気候変動を受けた地球温暖化によって、アトランタのような内陸都市は、強い勢力が保たれたハリケーンの到来により被害が拡大するだろうと同氏は話している。

 今回の調査には参画していないが、マイアミ大学でハリケーンを研究しているブライアン・マクノルディ氏は、「この調査で得られた結論はおそらく正しいと思われる。その場合、強い勢力を保った暴風雨の破壊的な力が内陸部に到達するのに備えて、少なくとも大西洋エリアでは災害保険料の引き上げ、建築基準の改定を検討しなくてはならないだろう」と述べている。

 ハリケーンの上陸後の動きに関する研究は、海上での動きと比較すると少ないのが現状だ。そのため、チャクラボルティ氏は、勢力が弱まる時間の変化に著しい傾向があったことに驚いたという。研究を開始する前、気候変動が人間によりもたらされているとはいえハリケーンの勢力に経年変化はないとチャクラボルティ氏は考えていた。勢力の源泉である温かい海水から切り離されたハリケーンは次第に減衰していくからだ。

 ガソリンがなくなった自動車のように、やがて動きが止まるようなものだという。

 だが、こうした傾向が加速したこれまでの25年間についていえば、ガソリンはそれほど減らなかったとチャクラボルティ氏は述べている。その原因を探るために、ハリケーンの経路上にある海面水温をグラフ化したところ、上陸後の減衰傾向と相関していることが判明した。

 研究チームはその後、水温以外の条件は同一とした場合のハリケーンの経路をシミュレーションした。海面水温が高いと減衰に時間がかかることが判明し、以下の結論が導き出された。ハリケーンの勢力が弱まるのに時間がかかるようになったのは、石炭、石油、天然ガスを燃焼させることによって引き起こされる海面水温の上昇によるものである。

 調査には参画していないが、ネイチャー誌で同論文を査読したアメリカ海洋大気庁の気候・ハリケーン科学者であるジム・コッシン氏は、「驚くべき徴候が明らかにされた」と述べている。

 今回の研究は、コッシン氏自身による過去の業績に続くものだ。そこでは、熱帯低気圧のさらなる速度低下、湿度上昇、極地に向かう傾向のほか、過去最強とされるハリケーンが次々に現れていることが明らかにされた。

By SETH BORENSTEIN AP Science Writer
Translated by Conyac

Text by AP