世界一サステナブルな通貨、キームガウアーとは
◆時間とともに腐るお金
キームガウアーの最大の特徴は、使わなければその価値が一定割合で下がっていくことである。その概念はドイツの経済学者、シルビオ・ゲゼルが唱えた「自由貨幣」に基づく。あらゆる自然物はすべて時間とともに価値が減少していくのに、お金だけは腐らない。これを減価させなければならないとゲゼルは提唱した。正確には、3ヶ月ごとに紙幣価値の2%が失われていく。そのため、最初の90日間は価値はそのままだが、それ以降は3ヶ月の期間が過ぎるごとに、マイナスになった分を補うスタンプを購入しなければその紙幣は使えない。そのため、利用者はなるべく早くお金を使おうとし、それが通貨の流通を加速させる。キームガウアーは強い購買力を保持し、ユーロよりも2.9倍の速さで流通していると推定されている。消費が活性化することで、消費税などの政府の税収も増加し、福祉が充実。NPOから受けられるサービスも増える。また地域通貨であるため、その地域内での消費を後押しし、地元の中小企業のビジネスも促進する。
紙幣の両替などを少し手間だと思うかもしれないが、地元の人はそれで地域が活性化するのであれば苦ではないと話す。2015年時点で、561の企業と3100人の利用者が参加し、キームガウアーでの年間売上高は約761万キームガウアー(約9億6000万円)、非営利組織に6万5600ユーロ(約830万円)が寄付されている。いまでは、提携銀行が取引サービスと交換ポイントを提供するデビットカードも存在する。学校のプロジェクトとして小規模で始まったキームガウアーだが、ゲレーリ氏は、地域通貨がいかに安定性、公平性、持続可能性を高めることができるかを提示した。実際、地元の人々は価値が下がっていってしまう貯金よりも、お金では買えないものに価値を見出し、自分の庭でガーデニングをするなど実体的に価値があるもので価値保存することにシフトし始めている。
◆広がる地域通貨
キームガウアーだけでなく、スイスで流通しているヴィア(WIR)なども地域通貨の成功例の一つである。サステナビリティとお金がどのように関わっているかは、表面的にみるだけではわかりにくいかもしれない。しかし普段は当たり前だと思っているお金の仕組みについて、一度立ち止まり見直すチャンスである。サステナビリティと呼ばれる持続可能で環境に優しい地域経済の理想は、地域生産・地域消費され、地域の資源と労働力を利用している世界である。キームガウアーの例を参考に、安定的で持続可能かつ公平な未来のためにお金を民主化させていくのも良いかもしれない。
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