本の話 2
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自分の書いた本を持って、いろんな場所を訪れる――そうすると、「本」を介したコミュニケーションのレイヤーが、「話をする」「対話をする」と、さらに広がっていく。
昨年、初めて名古屋でイベントをした。名古屋は祖父が暮らしていた街で、子供の頃は第二のホームタウンだった。それなのに恥ずかしながら、それまで名古屋の書店さんとは縁がなかった。
「名古屋でイベントをやりたい」とツイッターでつぶやくと、ライターの紫原明子さんがリプライをくれて、名古屋に「猫町倶楽部」という読書会があるということを教えてくれた。代表の山本多津也さんを紹介してもらい、私が参加しての読書会の開催が決まった。
猫町倶楽部は、名古屋で2006年に始まった読書会で、月10本以上、各地でイベントを運営している。参加条件は、課題図書として選ばれる本を読むこと。参加費はかかるけれど、基本的に誰でも参加できるイベントだ。参加者全員が自分の本を読んで出席してくれるという、著者からすると夢のようなイベントだが、洋書を取り上げることもあるし、著者本人が必ずその場にいるわけではない。私にとって初めての名古屋でのイベントになった読書会では、これまで出た『ヒップな生活革命』『ピンヒールははかない』『My Little New York Times』の3冊の中から、参加者が一冊を選ぶ、というやり方で、約80人近くもの人が集まってくれた。
会が始まる前に、山本さんと雑談をした。本業は住宅リフォーム業をやってらっしゃること、本業よりも猫町倶楽部の運営のほうが忙しいくらいであること、猫町倶楽部での出会いを通じて結婚する参加者も多いことなどを話してくれた。
5〜6人ずつでひとつのテーブルを囲み、くじ引きでモデレーターを選び、それぞれのテーブルで最初の人が発言して、ディスカッションが始まった。ほとんどの人がリピーターなのか慣れた様子で、知らない者同士の会話が、本を媒介にスムーズに始まっていた。それぞれが本に付箋をしたり、特に気になった点や共感したこと、理解できなかったことなどを話したりしている。
私は山本さんとともに、参加者たちが本についてディスカッションしている小さなテーブルをひとつずつまわり、質問に答えたり、感想を聞いたりしながら、その誰もが礼儀正しく、けれど活発に意見を交わし合うその光景に感銘を受けていた。今の日本で、知らない者同士が時間と場所を共有し、何かについて話し合ったり、感想を共有したりすることのできる場がどれだけあるだろうか? 本は双方向的なコミュニケーションのツールにもなりうるのだ、と実感した瞬間だった。
これも昨年、東京のTORIBA COFFEEからポップアップをやらないかと声をかけられた。私が買い付けを担当する、というプロジェクトだった。
長いあいだファッションやライフスタイルの世界に関わってきて、今、これだけ物が溢れる世の中で自分がバイヤーを務めるのだとしたら、手作りのものがいい、と思った。秋ということもあって、NY Art Book Fairで、リトルプレスのZINE(ジン)や印刷物を買ってくる、ということに決まった。のだが、企画のことを考えるうちに、自分でZINEを作りたくなった。
ZINEといえば、私は中学生のときに初めて、たまたま手にした大量のわら半紙に絵や文字を描いて、音楽をテーマにした同人誌を作ったりしていたのだった。アメリカに渡ってからは、DIYカルチャーとのふれあいの中で再び、コピー機を使った少量印刷、あるいはアーティストが作る本の体裁のZINEと再会していた。そして2000年代に入って、アート本とZINEを専門に扱う非営利の本屋〈プリンテッド・マター〉が毎年開催するNY Art Book Fairを通じて、ZINE文化が開花する模様をつぶさに見ていたのだった。
普通の古典的な出版社からは出せないようなものを作りたい。そう考えているときに、バケーションでバンコクを訪れた。そして、15年前のブルックリンを思い出させるような生々しいエネルギーに夢中になった。欧米を「#MeToo」が席巻している中、バンコクのジェンダー観や男女の性差に興味を持った。そこで、バンコクの男たち、そして女たちと話したり、彼ら、彼女らを観察したりして紀行文を2本書こうと決めた。カセットテープのようにA面・B面があり、両側から開くことのできる本を作ることにして、デザイナーの長島りかこさんにコラボレーションをお願いした。長島さんは、2色で彩られる2つの物語が本の真ん中で出会う、というデザインを考えてくれた。判型はこれまで出してきた単行本とほぼ同じ大きさだが、2つの文章と写真でページ数は68ページになった。印刷はリソグラフで、色が落ちるのを防ぐためにカバーに薄紙がかかっている。
私はデザインのスキルは持ち合わせていないし、印刷や製本を自分でやる時間はなく、そこは印刷業者さんにお願いしているので、完全にハンドメイドとは言えない。だからズルをしている気持ちもなくはないが、これが今の自分なりのリトルプレスなのだ。
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