沖縄の小さなものづくり

© Yoshinobu Ayame

 気の長い作業である。けれどその忍耐が、自分たちだけが作ることのできる作品につながる。木の皮は、大宜味村で活動する友人で染作家のkittaさんに提供して、染料の原材料になる。こうした作業の結果、自分たちが作った漆器に、同じ木から取れる染料で染めた布をかける、という共同作品が生まれたりする。名護の自然の中に工房を構えているからできることだ。

 同じく、本島の浦添では田仲洋服店を訪れた。店主は一度東京に出て、ファッションの道を目指したこともあるという田仲泰人さん。世の中に物があふれる状況を目にして、テイラーに転向した。生地には、国内で調達したものや客が持ってくる古い反物を使っている。そんな田仲さんが挑戦しているのが、沖縄でのオーガニック・コットンの栽培だ。綿の栽培は有機的にやろうとすると時間がかかる。もちろん業務に使えるほどの量を栽培できるようになるまでには、まだ時間がかかる。生地にするためには糸に紡ぎ、織る作業も学ばなければならない。これも、気長な作業ではある。

「できるかわからないことに挑戦してみたかった。沖縄の気候は綿に合うようで、予想以上に元気に育っています」

 こういった作り手の姿勢は、拡大することを目的としないやり方があるのだ、ということを教えてくれる。けれど、拡大を目指さないやり方は決して効率が良いとはいえない。気の長いものづくりが可能なのは、沖縄の家賃や諸経費が、他の場所に比べて安価で済むからだ。

 こうした動きが起きているのは沖縄だけではない。今、日本全国さまざまの、比較的リーズナブルに暮らせる場所で、かつて機械化が進む前に行なわれていた原始的なやり方に回帰する作り手たちが、活動している。

 彼らの、ものづくりのプロセスを見せる発信によって、私たちは、物がどうやって作られるのかを知ることができる。実際に彼らの活動は、スピードの早い大量生産の世の中に対するアンチテーゼとして、誰でも買えるものを消費することに飽きた人々を惹きつけている。

 だからこそこうしたやり方は、今のところ、ビジネスとしても成立している。失われつつある技術を応用したり、手作業で作られたりして、独特の作家性や優れたデザイン性を持つ商品には、それなりの価格が付く。日本国内で、作家が手を動かして作った、ということにバリューを感じる消費者が増えたからだ。

 こうした手作業の作り手たちの多くは、リテールショップに卸売りをする代わりに、作品を見せるためのギャラリーや、ショップで開かれるポップアップ・イベントを通じて、客に直接商品を販売する。店は作り手をホストし、イベントを開催する。ハコには人が集まり、店はコミュニティのハブとして繁盛する。作り手にとっては、自分の作品を購入する人々と直接のコミュニケーションを取れる場所がある、ということになる。

 作家たちの手から直接物を買う、という方法には、ただ店に並んでいる物を買うという作業にはない喜びがある。今の時代に、自分の手の広げられる範囲で、大量商品へと拡大される前の時代に行なわれていた方法で物を作る、というやり方を目指す人たちがいて、彼らの商売が成立していることに、一縷の希望を見るのだった。

【Prev】第28回・チョコレートから学ぶこと
【Next】第30回・本の話

◆著者の最新刊をご紹介


—–
佐久間裕美子さんの最新刊、発売!

『真面目にマリファナの話をしよう』
佐久間裕美子=著
本体1,500円+税/本文221ページ
文藝春秋=刊

書籍の詳細はこちら

「マリファナはなんで悪いの?」
「マリファナはなんでいいの?」――坂本龍一(音楽家)

シリコンバレーの超エリートが、セレブが、続々とマリファナ・ビジネスへ参入!? 日本人が知らない、合法化にいたるまでのアメリカの長い長い歴史と、解禁後のいまを追ってアメリカ大陸を西へ東へ。マリファナ観光からマリファナ栽培学校まで、世界を席捲する4兆円の巨大市場「グリーン・ラッシュ」の最前線をゆく!

Text by 佐久間 裕美子