食をめぐる問題 2

© Yumiko Sakuma

25

(前回からの続き)

 この10年ほどのあいだに「オーガニック(有機)」がバズワードになる一方で、農業の世界では、「サステイナブル(持続可能)」という概念だけでは、いま地球が直面する問題には対応できない、という考え方が登場した。気候変動や環境汚染によって農耕地が失われる「土壌喪失」が、これまでのアプローチでは追いつかない速度で広がっているからだ。

 そこで今注目されているのが「regenerative(リジェネレイティブ/再生可能な)」農業というものである。より広い見地から環境を見直しながら殺虫剤の使用を減らす(総合的有害生物管理、略称IPM)、複数の農作物を輪作して土壌改善を図る、人工的な農薬の替わりに有機的な農薬を使って生物の多様性を促進するなど、土壌の健康度を改善することに重きを置いた考え方である。こうした観点から農業を行なうことで、土壌だけでなく周辺環境の再生をも目標とするが、この考え方が広まりつつあること自体が、急速に農耕地が減少する現実を前に、「持続可能」という概念では追いつけないという状況の深刻さを物語る。

 少し話は逸れるけれど、私は2年ほど前に肉を食べるのをやめた。だんだん歳を取ってきて、肉を食べたあとに体が重いと感じていたうえに、ドキュメンタリー映画『健康って何?』(原題:What the Health)を見て気持ちが悪くなり、食べられなくなってしまったのだ。本作を撮ったアクティビスト系映画作家キップ・アンダーソンは、肉を食することが人間の健康に与える作用と食肉産業が環境に与える影響を憂う、菜食主義者であり環境主義者である。食肉にされる動物たちが非人道的な方法で飼育されていること、見かけをよくするために肉や魚に対するホルモン注射が横行していること、アメリカにおいて肉食が糖尿病や心臓病といった深刻な成人病の増加につながっていることを示すために、ショッキングな映像をこれでもかこれでもかと積み重ねていく。さらには食肉業界が政治や医療の世界とどうつながってその規模を維持しているか、その構造を暴く作品でもある。結論ありきの映画だとわかってはいたが、見終わる頃には「肉も魚も、もう無理」という状態になっていた。

 我ながら少しばかりエクストリームな反応ではあるが、その映画を見てから数カ月のあいだ、動物性の食べ物をいっさい食べなかった。偶発的にヴィーガニズムというものに足を踏み入れることになったのである。ところがやめてみると、自分の体に肉というものが向いていなかったのだ、と思うほど調子がよくなった。体がすっかり軽くなり、朝の目覚めも快調になった。それまで体験したことのない感覚だった。

 結局のところ、その数カ月でヴィーガニズムはお休みし、牛、豚、鶏などの肉は食べないけれど、魚介は食べる「ペスカテリアニズム」に転向したのだが、その過程でいろいろなことを学んだ。

Text by 佐久間 裕美子