ミレニアルとプラットフォーム・エコノミー
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アマゾンによるニューヨーク第二本部開設計画が、ミレニアルを中心とした若い世代がリードした運動によって中止という結末になったことは前回書いた。この事象は、アメリカのみならず世界でいま最大の消費者ブロックに成長したミレニアルたちの世代特性と多いに関係がある。
1980年から2000年のあいだに生まれた「ミレニアル」は、アメリカだけでも9200万人と言われ、アメリカ最大の人口ブロックに成長した。コンピュータやスマートフォンが当たり前に存在する時代に育ち、オンラインショッピングに抵抗がない一方で、ブランドよりも実質を、所有することよりも「シェアリング」を求める。既存メディアの評価よりもユーザーのレビューを信用し、自分がお金を使う企業に対し、社会的責任を果たすことや、サステイナブルな商習慣を実践することを要求する。そして、前の世代よりも、人とのつながりやコミュニティ活動を大切にし、社会運動に積極的に参加し、社会の変革を信じている――これが、多くの消費行動の調査を通じて浮き彫りになっているミレニアル世代の特性である。
こうした特性を持つミレニアルたちが今、彼らを購買層として取り込もうとする企業の商習慣をシフトさせている。たとえば大企業のユニリーバが、大手ケチャップメーカーのクラフト・ハインツからの買収を免れたあとに、ニューヨークでミレニアルが始めたケチャップブランド〈サー・ケンジントン〉を買収したり、ネスレが、ハンドドリップのコーヒーで成長したサンフランシスコ発の〈ブルーボトル・コーヒー〉を買収したのも、こうした「ミレニアル対策」の一環と言っていい。
同時にミレニアル世代は、かつて1970年代にベビーブーマーたちの別名として使われた「ミー(自分)世代」という言葉を発展させて「ミー・ミー・ミー世代」などとも言われる。ソーシャルメディアとともに育った彼らはSNSを中心とする自己発信を得意とし、自己実現に重きを置く。それが裏を返せば自己中心的、ナルシスト的と言われたりもする。
そんな彼らの自己表現が、フェイスブック、インスタグラム、ユーチューブといったプラットフォームの普及を推し進め、インフルエンサーと呼ばれる、ネット社会で手にした影響力をキャピタルに変える人種を生み出した。また、企業に対する帰属意識が薄く、フルタイムの仕事に就業するより、単発の契約仕事に従事するフリーランスのライフスタイルを好むミレニアルたちによって、単発の仕事を指す言葉「ギグ・エコノミー」が登場した(第16回・「高級化とその後」参照)。
「ギグ・エコノミー」には、ほぼ同義の言葉として「プラットフォーム・エコノミー」という概念がある。ソーシャルメディアや、アマゾン、グーグルといった「プラットフォーム」が、フリーランス人口による発信を助けるツールになったからだ。
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