アマゾンの話

© Yumiko Sakuma

 そんなとき、デトロイトを訪れたことがあった。長らく自動車産業の衰退による逆境に苦しんできたなかで、街を代表する「ユニコーン企業」の登場が切望されるデトロイトでは、アマゾン誘致への期待が過剰に膨らんでいた。「デトロイトの復活劇のストーリーにぴったり」と目を輝かせる人もいれば、「アマゾンが来たら」と誘致の実現を前提で話をする人もいた。それが起きなかったときの人々の失望を想像したら、少し悲しくなった。

 各中堅都市が自分の都市の売り込みを展開する、さながらオーディションのような第二本部誘致計画は、初期候補の大多数が振り落とされる段階を踏んで、最終候補都市20都市が発表されたが、最終的にアマゾンは、ニューヨークとワシントンDCとに分けて第二本部を作ると発表した。

 これには、さすがに開いた口が塞がらなかった。西海岸のシアトルに本社を持ち、流通を事業の軸とするアマゾンのような企業が第二の拠点を展開するとして、論理的には東海岸のどこかを選ぶのが自然なのはわかる。そしてたしかにニューヨークとワシントンDCを併用すれば、アマゾンが求めた条件は満たされる。ニューヨークには港も税関もあるし、ベソスの自宅はワシントンDCにある。つまり、さんざん大騒ぎして自治体にリソースを使わせたあとに、いちばん当たり前の選択肢を選んだわけである。

 でも、当たり前の答えを選ぶのだとしたら、なぜそもそも自治体のオーディションをしたのだろうか。なぜわざわざ遠回りしたのだろうか。

 その答えのヒントは、アマゾンがニューヨーク州とニューヨーク市から引き出した、30億ドル相当にのぼる減税などのインセンティブにあるのかもしれない。各自治体との水面下の交渉から、なかばオークションのようにして最大限のインセンティブを引き出し、最終的にはニューヨークに落ち着いたのだろう。最初から出来レースだったのだ、という声もあった。真偽のほどはわからない。

 とはいえ、アマゾンのニューヨーク進出は、あたかも「すでに決まったこと」のように発表された。少なくとも私は、「どうせもうすでに政治家たちが非公式に決めてしまったのだろう」と諦めに近いシニカルな気持ちを持った。

 と思ったら、私は間違っていた。それどころか、大間違いだった(続く)。

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Text by 佐久間 裕美子