工場のこと 2

© Yumiko Sakuma

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 長い海外暮らしの中で、いつしか、買い物のほとんどを日本でするようになっていた。特に衣類や下着は、日本で買ったもののほうが長持ちすると思うようになったから。そして、そう思ったのはもちろん私だけではなくて、日本を訪れて、日本のファッションやものづくりに魅せられた人たちの手によって、「メイド・イン・ジャパン」の魅力が海外に紹介されるようになった。先にも紹介したポートランドの〈キリコメイド〉やブルックリンの〈ヒルサイド〉などがその良い例だった。

 かつて、日本製といえば、車や電化製品だった時代がある。ソニーやトヨタが、アメリカやヨーロッパの商品にくらべて圧倒的な技術力を誇った1980年代のことである。そんな時代の「ジャパン・アズ・ナンバー1」はとっくに色あせてしまったとしても、アパレルの世界で「日本製」が再びブランド化したのである。

 アパレルの世界で人気がある「日本製」には、いろいろある。まずは日本で織られるテキスタイル。コットン、デニム、シルクなどの天然素材と、新しく開発されているものでは、アウトドアウェアなどに使われるテクニカル素材、そして市場は小さいけれど、今も地方で伝統的に続けられている手法で織られたテキスタイルなどが、国内外のデザイナーたちの作る服に使われている。

 そして、縫製だ。商品に付く「メイド・イン~」という表記は、製造の最後の工程、つまり縫製された場所で決められる。「メイド・イン・ジャパン」と誇らしげに生産地の入っているのは、縫製が日本で行なわれた商品、という意味だが、そういった衣服にはそれなりに良い値段がついていることが多い。

 なぜ日本製が良いのだろうか? 「クオリティが高い」と一言で言われるが、実際、それは何を意味するのだろうか? 日本の工場と海外のブランドとのあいだに立って仕事をすることもある在ニューヨークのパターン会社、大丸製作所2の大丸隆平さんに、聞いてみたことがある。

「よくイタリア製やイギリス製はクオリティが高いと言いますが、ヨーロッパの衣類文化はテーラーによって作られてきたものです。熟練のテーラーが最初から最後までを担当する衣類はもちろんクオリティが高い。日本人は農耕民族として培ってきた文化によって、共同作業を得意とするようになった。工程をパターン化することで、一枚の衣類を作る、それも何百という単位で、同じクオリティのものを量産することができるんです。そして、細やかさ。肩パッドひとつ取っても、厚さのバリエーションを多数用意していて、なかったら、作ることもできる。こうしたことが、日本について言われる『高クオリティ』ということなのだと思います」

Text by 佐久間 裕美子