ヒップな生活革命、その先のストーリー
現代人は、朝起きて夜床につくまで、たくさんのモノに囲まれ、たくさんの物質を消費しながら、そして、いろんな方法でお金を使いながら生きている。そうした購買活動のまわりに、たくさんの産業や業界が形成されている。私たちが働いて通貨を手に入れれば、それと引き換えに商品を手に入れることができる。手元の商品は、工業化以降、急速に形成された便利な生産・流通の仕組みを通過して届く。冷蔵庫には食べものがあって、蛇口をひねれば水が出てくる。スイッチひとつで電気やガスを起動させることができる。
けれど近年になって、こうしたいつしか当たり前になったシステムが、どうやら綻びを見せつつあることがわかってきた。自由貿易、市場経済、価格競争がよきことであると説いた西側世界が冷戦に勝ったことでシステムはさらに加速化・巨大化し、それによって起きた環境破壊や気候変動が、看過できないほど深刻な状態になっている。それでも私たちは、日々、無数の「消費」で構成される日常生活をのほほんと送っている。
『ヒップな生活革命』を書いたあと、日本以外にも全米で、そしてときにはその他の地域で物づくりをしている人たちの取材を続けながら、ファッションやクラフト、食の現場に、「○○が手に入らなくなった」、「○○が作れなくなった」といった声を聞くようになった。工場では、作り手の高齢化が進み、昔のように丁寧なやり方で物を作ることができなくなっている、という話を耳にするようになった。
ファッション業界は、石油業界に次いで環境破壊の規模の大きいビジネスだと言われている。これまで通りに環境に配慮のないやり方で大量生産路線を突っ走り続ける企業がある一方で、物を所有したい、美しいものを身につけたい という人々の欲望や、身にまとうものが人々に与えてくれる感情を認めたうえで、内部から環境持続性を高めることを目指している人たちが登場している。これまで発生した無駄を少なく抑える服の作り方が登場し、環境にかける負荷が少ない素材が開発されるようになってきた。
また食の世界でも同様に、おそらくいつかは避けることができない食糧危機を睨んで、様々な食物の開発が進み、バイオロジーの進化が食糧のあり方を変えるようになってきた。こうやって世界各地で起きている動きを結んでみると、そろそろ危機感を持ち始めた賢い消費者からの要求と、社会を変えようというスタートアップの試みとがマッチして、新しいモノとの付き合い方が新たな希望の光を示している。
これまでの「使ってなくす」やり方は、今、限界を迎えている。発展した国々の都会人たちが「豊かな暮らし」を手に入れ、それを追求しきった結果、資源は使い尽くされ、私たちが捨てるゴミの量が環境に大きな負担をかけている。ゼロ・ウェイスト(ゴミなし)にコミットする企業が増え、リサイクルの技術が進んでも、決して追いつかない速度で、環境の破壊は進んでいる。それをプッシュしているのは、たくさんのモノを捨てながら生きている都会人たちのライフスタイルである。人間がもっと資源を費やさずに生きることができたら、どんなにいいだろう? また、人間がモノに対する欲望を捨てることができたら、どんなにいいだろう? ところがそう簡単にはいかない。
どうせモノを使って生活するのであれば、もう少し責任のあるやり方はできないのだろうか? そもそもモノを「消費」することは絶対条件なのだろうか? 消費ではない、つまりモノをむやみに捨てたりしないためのお金との付き合い方はないのだろうか? 現代社会に暮らすひとりの「消費者」として、どうモノと付き合っていけばいいのだろうか?
こうした疑問は、いつも私の心の中でぐるぐるとまわっている。今、経済全体を見ると、アメリカでも日本でも、私が『ヒップな生活革命』で着目した「より足元を見る」というムーブメントは焼け石に水ほどの効果もないことを痛感する。自分ひとりができることはあまりに少なくて、無力感にも苛まれる。けれどもどうせ食べ物を食べ、エネルギーを消費し、自分の好きな装いをするのであれば、環境への負担を少しでも減らせる、知っておいてもいい知恵がある。自分が生きることで生じるコストや負荷を真剣に受け止めたい。自分の使うお金がどこに行くのか、私は何に支払っているのかを考えたい。自分の手元にあるモノがここまでやって来るまでに、どれだけの資源が使われ、それがどういう人たちの手によって、どうやって作られているのか、その価格がどうやって決められているのか、一人ひとりがもう少しだけ考えたら、大きな変革が起こせるかもしれない。
昨年訪れたエシカル・ファッションのイベントで “Wear your values”(自分の価値観を身につけよう)というフレーズを目にした。自分が身に着けるもの、買うものには、自分の価値観が現れる、という事実にハッとした。「ポスト消費時代のお金の使い方」をテーマに書きたいと思ってきたことが、この一言に集約されていた。これからこの連載を通じて、「ヒップな生活革命」以降少しずつ集めてきたストーリーを共有したいと思う。
【Next】第2回・モノにコミットして、「捨てる」を減らす
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