露呈するトランプ政権の内部対立と混乱 “相互関税”停止の裏では……

Alex Brandon / AP Photo

 1月に発足したアメリカのトランプ政権で早くも、貿易政策や国防問題をめぐる内部対立が激化している。就任からわずか3ヶ月、権力闘争が表に出た形だ。閣僚同士の争いや機密情報の流出問題へと発展し、政権の舵取りに支障をきたしつつある。

◆突然の「相互関税」停止の舞台裏で……
 トランプ大統領は9日に、発動したばかりの「相互関税」の措置を90日間停止すると発表したが、この裏では政策に反対する2人の閣僚の動きがあったという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、関税政策に異議を唱えるベッセント財務長官とラトニック商務長官が同日、政権で関税政策を担当するナバロ大統領上級顧問が大統領執務室から離れた隙をねらい、トランプ大統領へ関税の一時棚上げ案を提示した。

 この秘密会談は、大統領の公式日程には載っていない。ナバロ氏不在という「わずかな時間」をねらい、関税政策の一部凍結を即座に公表するようトランプ氏に迫った。

 関税問題をめぐっては、政府効率化省を率いるイーロン・マスク氏とナバロ氏の間にも火花が散った。関税政策に公然と異議を唱えるマスク氏が営む電気自動車会社テスラについて、ナバロ氏は7日、「海外部品頼みの単なる組立工場」とこき下ろした。これがきっかけでマスク氏は「ナバロは完全なバカ」「れんが袋より頭が悪い」などとX(旧ツイッター)に投稿した。

◆国防長官が機密情報を家族に共有
 トランプ政権の混乱は国防総省にも及び、ヘグセス長官のずさんな情報管理や側近の解任などをめぐり大きく揺れている。複数メディアによると、ヘグセス国防長官は先月、イエメンのフーシ派攻撃に向かう戦闘機の飛行計画を私的なメッセージで外部に漏らしていた。妻や兄弟、個人弁護士らとのグループチャットでこの情報を共有していたという。

 ヘグセス氏によるグループチャット問題は2度目になる。以前にも、暗号化メッセージアプリで政権幹部らと交わしていたチャットに、誤ってメディアの編集長を加えてしまっていた。

 こうした事態に野党民主党からヘグセス氏辞任を求める声が強まるほか、先日まで国防総省の報道官を務めた側近からも厳しい声があがる。

◆「忠誠心」重視の人事と政権内の対立構造
 混乱が広がるが、トランプ氏はヘグセス氏に引き続き信頼を置いている。AP通信によると、トランプ氏はホワイトハウスのイースターエッグロールの式典で報道陣に、「よくある虚偽報道だ」と一蹴し、ヘグセス氏は「優れた仕事をしている」と評した。

 一方でMSNBCは、トランプ政権内の亀裂が就任からわずか3ヶ月で表面化したとして問題視している。アメリカ史上、行政府内の派閥対立は珍しくないが、それが公になるまでには通常もっと時間がかかる、と指摘する。

 さらに記事は、強力なリーダーシップを持つ大統領なら内部対立に積極的に関与して解決し、政権としての方向性を明確に示せるはずだと指摘。しかしトランプ氏の振る舞いはまるで「傍観者」であり、政権内の分断がさらに深まるのをみすみす見過ごしているようだと論じている。

 亀裂の走り始めたトランプ政権に結束は戻るだろうか。

Text by 青葉やまと