移民を騙して民主地盤に移送……フロリダ州知事に誘拐容疑と集団訴訟

マーサズ・ヴィンヤード島に送られた移民(9月14日)|Ray Ewing / Vineyard Gazette via AP

 世界一の経済大国、かつメキシコやカナダと国境を接するアメリカにとって、不法移民は頭の痛い問題である。右派は選挙前になると人々の恐怖心を煽るために不法移民問題を取り上げ、民主党が「国境開放政策を取っている」と主張するのが恒例となっている。今年も中間選挙まで1ヶ月余りという時期になり、再選を狙って州知事選に出馬しているテキサス州のグレッグ・アボット知事が、不法移民や難民申請希望者を集めてニューヨークや首都ワシントン、シカゴなど、民主党の首長がいる大都市に送りつけるという政治パフォーマンスを始めた。

 それを良いアイデアだと思ったのか、フロリダ州のロン・デサンティス知事も同様のパフォーマンスを計画したようだ。同州には共和党支持者が多数を占めるキューバ系移民が多いが、同州を目指して来ることが多いキューバ人移民に同じことをしたら批判される可能性が高いと判断したのか、同知事はわざわざテキサス州まで人を派遣し、ベネズエラ人難民申請希望者を50人近く集めて、州の資金を使用してフロリダ州経由でマサチューセッツ州のマーサズ・ヴィンヤード島にチャーター機で送りつけたのである。

◆リッチな島に移民を違法に移送
 マーサズ・ヴィンヤード島は、バラク・オバマ元大統領もよくバケーションを楽しむ、主に東部在住の富裕層が集まる別荘地だ。デサンティス知事がなぜ突然ここに送ろうと考えたのかは、そこが「リベラルの巣窟のリッチな島」であると考えられているからだろう。そんな場所にベネズエラ人移民を突然送り込み、人々を困らせようとした魂胆があったのかもしれない。しかもデサンティス知事は事前にこの計画をマサチューセッツ州当局の誰にも知らせず、番組放映のため保守系テレビ局FOXにだけ知らせていたという。
 
 そのようにして難民たちはチャーター機で送られ、島の何もない場所にほとんど置き捨てられたわけだが、マーサズ・ヴィンヤード島の住民たちから助けの手が差し伸べられた。CNNによると、島の住民たちから衣服や食料をはじめとする寄付が寄せられ、移民たちを助けるためのボランティアも多く集まった。また、移民たちが来訪した後に全米から17万5000ドル以上の寄付が集まったという。

 それだけならば美談で終わるところだが、この事件には難民申請希望者を連邦政府の許可なく他州へ移動させるという違法性と、移民が騙されて誘導され、チャーター機に乗せられたことが誘拐に該当する疑いもあることから、テキサス州で捜査が開始された。

Text by 川島 実佳