「全米で中絶禁止」法案、なぜ総スカン? 共和党議員が提出

記者会見する共和党のグラム上院議員(9月13日)|Mariam Zuhaib / AP Photo

 今年実施されたギャロップの世論調査によると、「すべての状況で妊娠中絶が合法であるべき」と回答した人は35%、「特定の状況では合法であるべき」と回答したのは50%で、合計すると85%の人々が特定の状況、またはすべての状況で妊娠中絶を合法にすべきと答えている。反対に「いかなる状況でも禁止すべき」と答えたのは13%だった。

 最高裁は直接中絶自体を禁止したわけではないが、憲法に保障された権利ではないと判断したことによって、一部の共和党州に妊娠中絶をほぼ完全に禁止する口実を与えたことには間違いない。その結果、中絶手術が困難になった州では、ただ中絶手術を受けたい女性たちだけではなく、胎児がすでに死亡していたり、性的暴行で妊娠した場合や母体に危険がある場合でも中絶手術を受けることが非常に困難になっている。

◆中絶禁止の話題から距離を置く共和党員
 保守傾向の強いカンザス州で今年8月の中間選挙予備選時に実施された、中絶を認める州憲法改正の住民投票でほぼ6割が「ノー」と投票したことから、共和党支持者にも中絶擁護派が多数いることが浮き彫りになった。その結果、中絶禁止論者の共和党員は焦りを感じ始めたらしい。アリゾナ州上院選挙に出馬しているトランプ支持者のブレイク・マスターズ氏のように、中絶擁護論者の共和党員を取り込むため予備選当選後にウェブサイトの記載内容を削除するなどして、中絶禁止のスタンスを和らげる振りをしたり、コメントを避けたりする候補者が続出している。そのような状況のなか、空気を読めなかったのかグラム議員の全国的中絶禁止法案が突然発表され、多くの共和党員がこの法案から距離を置こうとする結果となったのである。
 
 今回の中間選挙で中絶の権利が最も大きな論争点の一つになることは間違いないだろう。共和党議員にも中絶擁護派が数人いるものの、共和党が上下院で過半数を占めれば、全国的な禁止法が現実化する可能性もないとは言えない。一方民主党が上下院で過半数を獲得した場合は中絶する権利を法律化すると明言している。中間選挙は普段投票率が低い傾向にあるが、今回の選挙は中絶の権利も含めてアメリカの将来を決定する非常に重要なものになりそうだ。

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Text by 川島 実佳