米中間選挙、民主党に追い風 物価安定、中絶権はく奪で

「インフレ抑制法」に署名するバイデン米大統領(8月16日)|Susan Walsh / AP Photo

 2022年に入り、アメリカでは新型コロナウイルスの規制がほぼ撤廃された。筆者の住むハワイ州でも3月後半にマスク着用令が撤廃され、まだ公共の場所でマスクを着ける人々がいる以外、2020年3月以前の生活がほぼ戻って来たようである。しかしアメリカ全土で外出や買い物、旅行をする人々が増え、それに伴い消費の需要が高まったことに加え、2月にロシアがウクライナに侵攻したことで、アメリカでもガソリン価格が高騰、インフレが加速し、物価が急上昇した。

 全米自動車協会(AAA)によると、6月14日には史上最高値の全国平均1ガロン5.02ドルまで上昇。ガソリン高騰と物価上昇は世界的トレンドで、完全にバイデン大統領の責任とは言えないが、悪いことが起こると政権を責めたくなるのが人間の性だろう。物価の上昇とともにバイデン政権と民主党への支持率は急落し、今年の夏は40%以下にまで下がった。今年11月に実施される中間選挙の世論調査でも共和党が軒並みリードするようになり、そして2024年大統領選の世論調査ではドナルド・トランプ前大統領がリードする状態にまでになった。

◆ロー対ウェイドで民主党に追い風
 しかしガソリン料金が最高値を記録後、6月中旬以降に少しずつではあるが平均価格が下がり始めたことや、6月2日の最高裁によるロー対ウェイドを覆す判決、そして1月6日調査委員会による公聴会のテレビ放映開始などがあった。8月7日には気候変動対策も盛り込んだインフレ抑制法案が上院で通過し、8日にはトランプ氏によるマーアーラゴの自宅での機密文書隠匿捜査が行われたことなどが相次いで続き、中間選挙2ヶ月半前になって政治的風向きが変わってきた。

 AAAによると、8月25日現在の全国ガソリン平均価格は1ガロンあたり3.88ドルで、6月の最高値よりも1ドル以上低くなっており、さらに下がり続けている。とくに政治的ではない人々にとって、ガソリンなどの物価が投票時の決め手となる場合も多い。共和党はこれまでガソリン価格高騰についてバイデン政権を攻撃していたが、ガソリン価格が下落している現在は攻撃材料を失ったことになる。

 しかし流れが変わった最も大きな決め手は、最高裁の保守派判事がロー対ウェイドを覆した件だろう。この一件で保守派、極右派に対する人々の危機感が劇的にアップした。それがよくわかるのは、8月2日に保守州カンザス州の中間選挙予備選で実施された同州憲法からの妊娠中絶の権利削除の住民投票だ。この住民投票では権利削除反対票が59%、賛成票が41%という結果で、反対派の圧勝という意外な結果となったのである。2020年にトランプ氏が圧勝した保守州でこの結果が出たことで、民主党とその支持者に希望と気運、そしてモチベーションが戻ってきた。

Text by 川島 実佳