アメリカが変わるか 「ビルド・バック・ベター」法案が上院投票へ
世界一の先進国で、世界一の経済規模を持つアメリカ合衆国。長年アメリカで暮らす一住民として言えるのは、ほかの先進国とは違い、この国では国民が皆公平にアクセスできる政府の福利厚生プログラムが非常に限られているということだ。お金さえあれば医療をはじめ超一流のサービスが受けられるが、普通の労働者層にはもちろん手が届かない。大成功する人とそうでない人の間の経済格差が他国と比較して非常に大きいが、一方で成功するチャンスも多くあるという、ある意味で「人生のギャンブル」の縮図のような国だ。そしてミリオネア以上には優しく、ミドルクラスとそれ以下には非常に厳しい国でもある。
◆「中流家庭が生きにくい」国を変える法案
そんなアメリカにおいて、いままで連邦政府による福利厚生プログラムといえば、日本の年金制度にあたる社会保障制度や、健康保険を含む低所得者(生活困窮者)向けの支援プログラムがある程度だった。つまり、低所得者には該当せず、日々の費用を払えるものの、それほどお金に余裕がなく、同時に政府からの支援も受けられない世帯が、最も憂き目を見ることになる。日本や他諸国のような、政府の制度としての国民皆保険や、出産・育児や介護休暇などもなく、人々は勤務する組織によって異なる福利厚生を利用することになるが、もし勤務先にそのような制度がない場合は無給になり、困窮に拍車がかかる……という悪循環に陥る人々が多かった。
それを変えようとしているのが、バイデン大統領によるチャイルドケア(育児サービス)や出産・育児休暇を含む家族休暇、教育などの福利厚生と、クリーンエネルギーや気候変動対策などの環境事業投資の法案「ビルド・バック・ベター(Build Back Better)」法である。バイデン政権の原案では、約400兆円をかけてこれらの分野でさまざまな公共事業を行うはずだったが、民主党と共和党議員のバランスが50・50の上院で、民主党では右派寄りと言われるウエストバージニア州のジョー・マンチン上院議員とアリゾナ州のカーステン・シネマ上院議員が異議を唱え、長い交渉の結果、規模が当初の半分となる200兆円まで下げられ、当初含まれていたコミュニティ・カレッジ(公立短大)無料化や家族休暇などさまざまな内容が削られる結果となったが、その後下院で4週間の家族休暇が再び加えられた。同法案は11月19日に下院を通過し、年末までには上院で審議と投票が行われる予定だ。
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