競争なき民主主義…日本政治の危機、誰も救えない? 自民総裁選を見る海外メディア

Kimimasa Mayama / Pool Photo via AP

◆回転ドア復活? 世代交代のチャンスにも
 ドイツの放送局ドイチェ・ヴェレ(DW)は、総裁選の勝者が首相の座を射止めることになるが、誰が勝っても日本を悩ます問題を克服するのは困難だと指摘。コロナ禍での景気悪化、所得減少、格差の拡大に加え、人口減などの長期的な構造的問題が新首相の前に立ちはだかるとしている。

 明治大学の伊藤剛教授は、11月の衆院選と来年7月の参院選という2つの選挙はあっという間にやってくるため、もし2回目の選挙までに前向きな変化を国民が感じられなければ、間違いなく首相は苦境に立たされるとDWに述べる。そうなれば首相が退陣に追い込まれて毎年交代するという過去のパターンに戻ることが予測されるとしている。

 一方、テンプル大学ジャパンキャンパスの村上博美氏も同じ懸念を示しながらも、今回の選挙は転換期にもなり得るとしている。58歳の河野氏だけでなく岸田氏64歳、高市氏60歳と比較的若い世代が立候補していることから、年配者が裏取引で決定する古い政治から脱却するチャンスでもあり、古いシステムを打ち破るときかもしれないとしている(DW)。エコノミスト誌も同様で、回転ドア逆戻りの恐れはあるが新時代への扉を開くことになるかもしれないと述べ、現段階では不確実ということが唯一確かなことだとしている。

◆誰が総裁でも選挙は勝てる? 危機に陥った民主主義
 英ガーディアン紙に寄稿したルンド大学のポール・オシェア氏と仙台白百合女子大学のセバスティアン・マスロー氏は、悲惨な支持率だった菅氏の後任は、総選挙での敗北回避の努力をしなければならないはずだが、日本の民主主義ではそうならないと断じる。日本では信頼できる野党が生み出されなかったため、有権者は政治に無関心となり、他国のように極端なポピュリズムも支持しないが投票にも行かなくなった。結果として自民党はいくらか議席を失っても、楽に政権を維持できると予想され、「競争なき民主主義」が定着してしまったとする。

 両氏は自民党が支配的であるがゆえに代替案や新しい顔が出てこないとしており、最も若くエキサイティングでダイナミックな首相候補が、自民党の世襲議員である河野氏であることがそれを物語っていると述べる。特権的で保守的な年配男性が権力を独占するやり方は戦後、物質的な繁栄をもたらしたが、そのやり方では現在の大多数の日本人に恩恵はもたらされない。女性、若者、非正規労働者、移民の声こそが、日本を取り巻く問題に対処し、より人間らしい社会に導くために必要だというのが両氏の意見だ。しかし自民党総裁選で誰が勝っても、そういった困難に立ち向かうことはなさそうだとし、菅首相退陣でも、日本政治の危機は救えないと見ている。

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Text by 山川 真智子