「日本も世界のナショナリズムの流れに」安倍自民の勝利に海外紙 今後の焦点は?

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 与党・自民党が圧勝した22日の衆議院総選挙を受けた海外報道が出揃ってきた。俯瞰すると「アベが圧倒的過半数を維持、憲法改正に前身か」というワシントン・ポスト紙(WP)の記事に代表されるように、自民大勝により改憲が現実味を帯びてきたとする報道が多い。その中で、イスラエルのハアレツ紙は、「トランプ時代の好戦的な(militant)ナショナリズムの勝利」と、安倍自民の勝利を右傾化あるいは保守化が進む最近の欧米の政治情勢に連なる現象と捉えている。

◆支持されたのは「タカ派的政策」
 ハアレツ紙は、安倍首相の大局的な野望は、「日本を再び偉大な国にする」ことだと見ているようだ。与党が衆院で改憲発議に必要な3分の2以上の議席を維持したことで、「安倍はようやく憲法9条改正と軍隊の合法化という長年の夢を満たすことができる」と書く。これにより日本は、トランプ米大統領の就任、カタルーニャの独立宣言、英国のブレグジット(EU離脱)、ドイツ総選挙での極右政党の台頭といった世界の「ナショナリズムの流れ」に合流したと同紙は指摘する。

 一方、WPは「保守派の政治家たちは改憲の機は熟しきっていると見ているが、有権者の多くはいまだ懐疑的だ」とも書く。このように、憲法改正法案が国会を通過しても、その後に控える国民投票で信任を得られるかは微妙な情勢だという見方を示すメディアが大半だ。では、今回の選挙で安倍自民が圧倒的な支持を集めた背景にある他の要素は何かと言うと、「北朝鮮の脅威」「少子高齢化」という2つの危機に対する安倍氏の「タカ派的政策」だとハアレツは書く。

 スタンフォード大学のダニエル・シュナイダー氏は、今回の選挙では憲法改正が直接的な争点だったとまでは言えず、最近の欧米の選挙に比べれば世論を二分するようなテーマはなかったと指摘する。同氏はアメリカで大ヒットした日常コメディードラマ『となりのサインフェルド』にたとえて、今回の衆院選を「Seinfeld選挙=争点のない選挙」と呼んだ(WP)。

◆豪識者「9条は時代錯誤」
 ハアレツは、朝日新聞の最新の世論調査では、安倍首相の支持率は38%にとどまっていることを取り上げ、選挙結果と安倍氏個人の人気の乖離を指摘する。一方、米シンクタンク外交問題評議会の日本専門家、シーラ・スミス氏は、今回の選挙は「安倍氏の勝利」であるのは明白だとWPにコメント。与党が圧倒的過半数を得たことで、安倍首相がこれまでに発揮してきたリーダーシップが本当の意味で承認されたというのが同氏の見方だ。アベノミクスによるものかはさておき、実際に最近の日本経済が好調なのも、現状維持が是認された背景にあると複数の海外識者が指摘している。

 今後の安倍政権の最大のテーマが憲法改正だというのは、各紙にコメントを寄せている識者の一致した見方だ。その中で、最も改憲を支持しているのが、オーストラリア・グリフィス大学のマイケル・ヒーズル准教授だ。同氏は、「日本にとって今最も必要なのは、憲法改正についての成熟した議論だ」と主張。これまでは、左右両派のイデオロギーの不一致により改憲論議そのものが脇に置かれて来たが、中国が領土拡張の野望を抱き、アメリカが孤立主義的傾向を見せるなど世界が大きく変わった今は、そんな悠長なことはしていられないと、同氏は英ガーディアン紙にコメントしている。
 
 ヒーズル氏はさらに、「左派は9条を維持しなければならないと言うが、それは現実的な提案ではない。世界が変わった今となっては、9条は時代錯誤だ。東南アジア諸国とオーストラリアが日本の軍国主義の復活を懸念した日々は過ぎ去った」とコメント。その上で、「日本が普通の安全保障のスタンスを取ることに反対する国が、アジア太平洋地域で中国と北朝鮮以外にあるとは思えない」とし、母国のオーストラリアなどと共に日本も地域の平和と安定に積極的に貢献すべきだと主張している。また、「今のワシントンは安全保障のタダ乗りは許さない」と、これまでのような米軍頼みは通用しないとも指摘している。

◆選挙結果と民意の乖離を指摘する意見も
 ガーディアン紙は、改憲問題以外についても、選挙結果を受けた今後の日本の行く末を識者に聞いている。

 枝野幸男氏の立憲民主党が健闘し、野党第一党になったことについて、テンプル大学ジャパンキャンパス・アジア研究学科ディレクター、ジェフ・キングストン氏は「枝野氏の党は、安倍氏の不備や欠点を明らかにする良い位置についている」と指摘。護憲派の主張を代弁すると共に、「アベノミクスは金持ちのための政策だ。かえって格差が広がっている」という不満を持つ層の受け皿になりうるとしている。

 また、上智大学の中野晃一教授(政治学)は、自民党が大勝したのは小選挙区制の欠陥のためで、改憲などの主要な問題については、与党の獲得議席数と国民の意見に「大きなギャップがある」と主張。日本人はこれから、安倍首相の改憲へのこだわりに付き合わされるような形で、「戦後民主主義に満足している」と感じているか、あるいは「古い日本とその価値観を取り戻したい」と思うか、心情を問われることになるとしている。そのうえで、同氏は、そういう感情論にしかならない改憲よりも、緊急に取り組むべきは現実の危機である経済再生と高齢化問題だと述べている。

 また、小池百合子氏率いる希望の党が惨敗したことに絡み、豪RMIT大学のエマ・ダルトン氏は自民党支配の継続により女性の政界進出が進まなくなると落胆している。アベノミクスは女性のビジネスへの進出拡大を目標の一つに掲げているものの、ダルトン氏は「自民党候補者のうち女性はわずか8%だった」と指摘。政治・経済への女性の進出ではOECD加盟国中最下位の日本の現状は、しばらく前進しないと見ている。

Text by 内村浩介